タイのビジネスニュース:2025年5月後半

タイ飲料自動販売機の運営会社Forth Vending社が農家から果物を直接調達(5月20日)
飲料自動販売機の「Tao Bin」を運営しているForth Vending社は、「Tao Bin」の新展開として、スムージー用果物を農家から直接調達する方針を発表した。
これは、タイ政府の果物価格安定化および国内消費促進政策の一環であり、同社と商務省が覚書(MoU)を締結して実現したものである。
同社は、農家から果物を購入し、手頃な価格で高品質の飲料を求める消費者向けに設計された新型のスムージー自動販売機「Tao Pun」を通じて販売する体制を整えた。
「Tao Pun」は冷凍果物を使用したスムージー専用自販機で、今月開催される「THAIFEX-Anuga Asia 2025」で正式に発表される。「Tao
Pun」の販売にあたっては、マンゴー、リュウガン、プラエパイナップル、ライチ、ロンコン、グロスミッシェルバナナ、ピンクグアバなど合計1,000トンの果物を農家から調達する予定である。6月からはセントラルなどの国内大手モールに25台が導入され、その後地方へも展開される
予定である。
現在、「Tao Bin」の自動販売機は、全国69県に7,500台の自販機を展開しており、国内展開の他、香港、シンガポール、オーストラリア、
マレーシア、アラブ首長国連邦のドバイの5つの海外市場にも合弁会社やビジネスパートナーを通じて導入が進んでいるとしている。
内閣が米国関税の影響に対応するため、1,570億バーツの予算転用を承認(5月20日)
内閣は、消費刺激策として計画されていた1,570億バーツ(約47億USドル)の予算を再配分し、今後数ヶ月に実施される米国関税の影響に
対応する緊急プロジェクトに資金を転用することを発表した。
タイは、7月のモラトリアム(猶予期間)までに米国との関税引き下げ交渉が成立しなければ、最大36%の関税が課される可能性がある。
現時点では、ほとんどの国に対して10%の関税が適用されている。
今回の予算転用は、主力のデジタルウォレット政策の次段階に割り当てていた1,570億バーツを水管理、輸送・物流プロジェクトへの投資や、中小企業向けの金利融資などへの投資に再配分するもので、米国関税によるタイ経済への影響を最小限に抑える狙いがある。転用される予算は
9月までにプロジェクト承認が必要で、第3四半期と第4四半期は関税問題の影響を大きく受けると予想されるため、第3四半期から迅速に執行
される見通しである。なお、デジタルウォレット政策とは、年収84万バーツ未満かつ、銀行預金が50万バーツを超えない16歳以上のタイ国民を対象として、デジタル経済社会省(MDES)とデジタル政府開発庁(DGA)が開発するアプリを通じて、1人当たり1万バーツのデジタルマネーを支給する経済政策である。
東南アジア第2位の経済大国であるタイは、第1四半期に前年同期比3.1%増の成長を記録したが、最新の政府計画では年間成長率予測が関税の影響により1.3~2.3%に下方修正された。また、昨年の経済成長率は2.5%で、近隣諸国に遅れをとっている状況である。
SCG Chemicals社がグリーンポリマーの増産を計画(5月21日)
タイ最大のセメントメーカーであるサイアム・セメント・グループの傘下企業のSCG Chemicals社(以下、SCGC)は、世界的な需要の高まりに対応するため、グリーンポリマーの増産を計画していると発表した。
グリーンポリマーの生産は、不要になった材料に付加価値を付けて再利用する循環型経済のコンセプトに基づいており、プラスチックを精製処理することで再利用可能なポリマーへ転換する。
同社は、このプラスチックビーズなどのグリーンポリマーを継続的に製造しており、2030年までに年間100万トンのグリーンポリマーの生産を目指している。グリーンポリマーの需要は、特に包装業界で高く、環境に優しい包装材が消費者製品に不可欠となっている。
また、同社は高性能ポリマーを原料とした新たなグリーン製品の開発にも注力しており、付加価値製品の生産により、競争力を高め、廃棄物削減や天然資源消費の抑制を目指している。2024年には、持続可能なプラスチックの開発を推進するため、米国の化学会社ダウと提携し、共同プロジェクトを開始している。同プロジェクトは、2030年までに年間20万トンのプラスチック廃棄物を循環型製品に転換するもので、この提携により、メカニカルリサイクルや高度リサイクル技術の開発が加速すると期待されている。
また同社は、米国の関税政策により原油価格が低下し、石油化学製品の価格差(スプレッド)が拡大することで、業界全体の利益改善に寄与すると見込んでいる。
サムスンは、タイの高級テレビ市場が成長を牽引すると予測(5月21日)
韓国の大手電子機器メーカーであるサムスン電子は、2025年のタイのテレビ市場が高級テレビセグメントの牽引により、前年比2%増の成長を遂げると見込んでいると発表した。
全体の市場規模は220億バーツで、75インチ以上の大型・高価格帯テレビの需要が高まっており、今年第1四半期の同セグメントの売上は、
前期比10%で成長した。これは、高級志向顧客の購買力の高まりを反映している。また同社は、タイの消費者が人工知能(AI)搭載家電を選ぶ傾向が強まっていることから、タイのテレビ市場は継続的な成長可能性があるとみており、市場平均を上回る6%の成長を目指している。これに伴い、同社は昨年、国内の購買力の低下に対応するため、「サムスンファイナンスプラス」という分割払いプログラムを提供している。
タイでは、地上波のテレビ視聴は減少傾向にあるものの、YouTubeなどをストリーミングして視聴することが一般的である。YouTubeは、
再生をスムーズにするために圧縮されてしまう場合があるため、圧縮された映像を高画質に補正するAI機能が重要視されており、多くの家電
ブランドでAI搭載が標準化されている。
しかしタイのテレビ市場は、低価格戦略をとる中国ブランドの参入により競争が激化しており、こうした中国ブランドの流入が市場全体の
価値を押し下げる可能性があるとされている。これに対して、同社は価格競争に頼らず、製品の機能や魅力的な支払いオプションを強みに競争していく方針としている。
地震をきっかけにバンコクのオフィス市場の関心が高まる(5月22日)
事業用不動産サービスと投資顧問業務を展開するCBRE Thailand社は、2025年第1四半期のバンコクのオフィス市場は、新規供給の増加に
より空室率が上昇し、貸主間の競争が激化していると発表した。
3月28日に発生したミャンマーの地震により、企業は安全に対する意識が高まり、その懸念からオフィス選定の見直しが進んでいる。
CBREは、地震以降のバンコクオフィス市場の変化の要因として以下の3つを挙げている。
まず、第一は、建物の構造上の安全性が入居企業にとって最優先事項となっている。2つ目に、貸主の迅速かつ明確な情報提供が重視され、
地震マニュアルの整備や、アプリ・デジタルサイネージ・SNS・メール等を通じた多様なコミュニケーション手段が求められる。3つ目に、オフィスのトレンドが変化し、低層ビルや高層ビルの低層階への関心が高まっている。
多くの建物は安全性を維持していたが、対応の速い貸主は入居者からの評価を高めた一方、情報提供が不十分だった管理者は入居者の離脱
リスクが高まっている。CBREはこの地震を契機に、バンコクのオフィス市場における「フライト・トゥ・クオリティ(より高品質な物件への移転)」の流れが加速すると分析している。
井上ゴムタイランドが売上高5%増を見込む(5月26日)
井上ゴムタイランドは、米国の相互関税の90日間のモラトリアム(猶予期間)により、高級二輪車用タイヤの需要が増加し、今年の売上高が前年比5%増加すると見込んでいることを発表した。
IRCブランドのゴム製品や二輪車用タイヤを製造している同社は、当初4月9日から施行される予定だった関税措置の延期によって、米国の関税措置が施行される予定の7月上旬を前に、輸出を加速させており、関税施行前に商品を備蓄しようとする国々からの新規注文が収益を押し上げている。
タイは米国へのタイヤの最大輸出国であり、その輸出量は年間4,280万本で、米国の総タイヤ輸入量の25%を占めている。なお、米国の顧客にタイヤを販売している他の国としては、ベトナム、カンボジア、メキシコ、カナダ、中国などがある。
同社は、米国の他にも40カ国以上にゴム製品を輸出している。一方、タイ国内では家計債務の影響で自動車ローンが厳しくなり、自動車販売が低迷しており、同社は新たな海外市場への進出を図っている。
生産拠点はランシットとワンノイの2か所にあり、パトゥムターニー県ランシットの工場では年間360万トンの二輪車用タイヤを製造しており、アユタヤ県ワンノイの工場では自動車・工業向けのゴム製品を生産している。また、同社は安価な輸入タイヤに対抗するため、政府に対して保護政策の導入を求めている。
タイ投資委員会が先端技術分野強化に向け韓国からの投資促進を目指す(5月27日)
タイ投資委員会(以下BoI)は、人工知能(AI)をはじめとする先端技術の発展を後押しするため、韓国からの対タイ投資をさらに促進させたい意向を示した。
BoIによると、2025年1月から3月までの間に、韓国企業から電化製品、機械・部品、自動車関連などの分野で総額12億バーツにのぼる7件の投資案件が提出されている。韓国は、タイにとって13番目に大きな貿易相手国であり、2024年の貿易総額は約15億ドルに達している。2020年~2024年には141件、総額630億バーツの韓国企業による投資案件がBoIに申請されている。
韓国の投資家は、半導体、AI、電気自動車、医療産業など、タイが重点を置く新しい産業分野への投資ポテンシャルを持っている。同委員会は、韓国からの投資をさらに引きつけるために、「タイ・ビジネスの基礎:韓国企業幹部向け包括ガイド」といったセミナーを韓国貿易投資振興公社(KOTRA)と共同で、韓国企業の主要な生産拠点であるチョンブリ県で開催した。
また、韓国大使は、タイと韓国両政府が近い将来の経済連携協定(EPA)の締結に向けて交渉を加速させていることを明らかにした。このEPAは、既存のASEANと韓国FTAおよび地域的包括的経済連携(RCEP)を補完するものであり、デジタル貿易やサプライチェーン協力など、新たな分野での市場アクセス拡大を目指している。
タイの鉄鋼メーカー2社が合併(5月28日)
タイの鉄鋼メーカーであるThai Coated Steel Sheet社(以下TCS)とThai Cold Rolled Steel Sheet社(以下TCRSS)は、米国の貿易政策による経済の不確実性と鉄鋼市場の変動に対応するため、合併することを発表した。
今回の決定は、EAFロングプロダクト鉄鋼生産者協会が、トランプ米大統領の関税政策が鉄鋼市場に悪影響を与え、消費の減少と価格変動を引き起こすと警告したことを受けての発表である。
今回の合弁は、TCSがTCRSSに統合される形で、2025年10月1日に発効する予定である。
TCSとTCRSSは、1990年に日本のJFEスチール、丸紅伊藤忠スチール、そしてタイの鉄鋼業界の先駆けであるSahaviriya Steel Industries社との合弁で設立された企業で、オフィス機器、自動車部品、家電製品など、様々な業界に製品を供給してきた。
今回の統合の目的は、「シナジー(相乗効果)の創出」であり、3つのアクションプランを掲げている。具体的には、①業務効率の向上、②製品品質と顧客対応力の強化による新規市場開拓、③中流から下流までをカバーする強固で統合されたサプライチェーンの構築という3つの戦略により、シナジー効果を生むことを目的としている。
また、タイの鉄鋼業界は米国の関税政策に加え、中国からの低価格輸入品の増加という課題にも直面している。米中貿易摩擦の影響で、今後さらに東南アジアへの鉄鋼輸出が増加する可能性があり、地域内での競争が一層激化する見通しである。合併は、こうした逆風の中で業界の競争力を強化する一手になるとしている。
2025年のタイ輸出が4%以上の成長見込み(5月29日)
タイの商務大臣は、2025年のタイの輸出が4%以上成長する可能性があると発表した。既に今年の1~4月の4か月間で14%の増加を記録したことから、当初の成長目標である2~3%を上回る4%超が期待されている。
政府は、輸出促進の一環として、生産者に対し、より多くの国産素材を製品に取り入れることを奨励している。また、中国の外交官とは合弁事業の可能性について、米国企業とは国産素材の利用拡大について協議したことが明らかにされた。さらに、主要農産物である米やキャッサバの新市場開拓やソフトウェア・ハードウェア分野での生産拠点化などの追加政策も検討されている。
政府はFTA(自由貿易協定)交渉にも注力しており、EU、英国、韓国、ASEAN・カナダとの新たな協定締結を目指している。特にEUとは6月に協議を行い、年内合意を目指している。重点市場として米国、インド、中東、ASEAN、中国が挙げられ、戦略として、タイ製品のブランド力(ソフトパワー)の活用、FTAの利点最大化、地方商務省と海外貿易代表の連携強化も重視されている。
民間側も政府の施策に賛同しており、FTA交渉の迅速化と輸出市場の拡大への期待が高まっている。また国家輸出業者評議会は、持続可能な貿易を実現するための「貿易国家」構想の重要性を強調しており、今年の輸出成長率については少なくとも3%に達する見通しを示している。
デジタル経済社会省が地域AIハブの地位を目指す目標を再表明(5月30日)
デジタル経済社会省(DES)は、2027年までにタイを東南アジアのデジタルおよび人工知能(AI)ハブに位置付けるという目標を改めて発表した。
同省の大臣によると、タイのデジタル経済は今年7.3%成長すると予測されている。政府は、「タイの成長エンジン( Growth Engine of
Thailand )」と呼ばれる政策を通じて、デジタル基盤の構築と機会創出を長期計画として進めている。同政策は、クラウドファースト政策に
よるデジタル競争力と強固なデジタルインフラの構築、デジタル公共サービスの推進、すべての地域への高速インターネットの普及・拡大などが含まれる。
さらに、政府はデジタル人材を強化し、教育レベルでの人材育成に注力するとともに、変化する世界のニーズに応える能力を身につけられるよう、すべての国民に対するリスキリングとスキルアップを推進している。なお、これに関して政府は、2年以内に1,000万人のデジタルユーザーをリスキリングし、5万人のAI開発者を育成することを目標としている。
また、新たに設立された国家AI委員会を通じてAIビジョンを発表し、地域AIハブの地位を確立しようとしている。6月にはユネスコのAI倫理フォーラムを共催し、持続可能なデジタル変革を推進するとしている。