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オランダ・ロッテルダム港を「水素ハブ」へ!-きたる「水素社会の実現」に向けて


欧州の物流ハブ・オランダ
 歴史的に貿易立国として発展してきたオランダ。欧州の中央に位置する同国は、欧州物流の中心地であり、イギリス、フランス、ドイツという欧州の三大経済圏に容易にアクセスすることが可能だ。オランダの人口は1,755万人(2021年時点)と、国内市場はそれほど大きくないものの、ロッテルダムを中心として、半径500㎞圏内に1億6,000万人を超える欧州消費市場がある。アムステルダム・スキポール空港やロッテルダム港をはじめ、道路、鉄道、内陸水路などの充実した輸送インフラにより、欧州各国に通ずる物流ハブとして、オランダは現在も機能し続けている。


欧州の化石燃料ハブ・ロッテルダム港
 そのオランダの主要港、ロッテルダム港は、北海に注ぐライン川とマース川の河口部に位置している。産業革命時、同港はルール地方からの鉄鉱石や石炭を輸送する重要拠点として機能し、20世紀以降は、原油、石油の運搬拠点としての役割を担ってきた。そのため、港内には、石油精製施設、工業用ガス製造施設などがあり、欧州最大の石油化学工業地帯が形成されている。ロッテルダム港の公表資料によると、現在では、欧州域内で消費されるエネルギーの約13%がロッテルダム港を経由して供給されており、そのほとんどが化石燃料に基づくものであるという。
欧州の水素ハブ(計画)・ロッテルダム港-始動する「水素マスタープラン」
 その化石燃料ハブとして発展・機能してきたロッテルダム港は、「パリ協定」や「欧州グリーンディール(EGD)」など、世界の環境対策に向けた動きに呼応して、化石燃料輸入港から水素輸入港へ転換する方向へと舵を切り始めている。
 水素は、石油や天然ガス、その他再生可能エネルギーなど多様なエネルギー資源から作ることが可能であり、太陽光や風力のように、自然界の影響を受けにくい。そのため、クリーンでかつ需給バランス面での課題を克服するエネルギーとして、欧州各国はこの次世代エネルギーの水素に期待を寄せている。
 この動きに対し、ロッテルダム港は、欧州における今後の水素需要を見越して、2020年5月に「水素マスタープラン」を公表した。これはグリーン水素のサプライチェーン構築を促し、同港を北西ヨーロッパにおける水素輸入、供給拠点として機能させようとする計画だ。ロッテルダム港は、元来から最適なロジスティクスを提供するために設計された合理的なインフラ網により、欧州の顧客が求めるジャスト・イン・タイムの供給に応えるに適した港であった。このインフラ、地理的な優位性を活かして、大量製造に加えて、大量輸送を可能とする一大サプライチェーンを構築しようというのが「水素マスタープラン」のメインテーマである。


ロッテルダム港の水素ハブ化に向けたロードマップ
 EUおよび燃料電池水素共同実施機構(FCH-JU)は、2019年に策定した「水素ロードマップ」において、水素エネルギーに関する「野心的なシナリオ」を打ち出している。それによると、欧州における水素の市場規模について2030年に1,300億ユーロ、2050年には、8,200億ユーロとすることが目標として掲げられている。また、エネルギー需給に占める水素割合も2030年、2050年でそれぞれ6%、24%とする高い目標が、同ロードマップでは設定されている。この目標を達するため、オランダ政府は、2020年4月に、「水素に関する国家戦略」を公表した。それによると、同国政府は、期間ごとに以下のような段階的目標を設定している。

第1段階(2019 年から2021 年)
 電気分解による水素の生産と水素利用の普及
第2段階(2022 年から2025 年)
 地域インフラの整備推進、電解コスト削減、水素電解設備の容量を500MWまで増設
第3段階(2026年から2030年)
 水素電解設備の容量を3~4GWまで増設、インフラ拡張、水素ハブの構築
水素輸送網構築に向けたインフラ整備は現地企業に強み
 水素ハブ化に向けて、ロッテルダム港が直面する当面の課題は、1)水素の国際輸入ネットワークの構築、2)パイプライン輸送網の構築、3)水素の海上輸送・貯蔵能力の向上、となるであろう。
 1)に関しては、現在、ロッテルダム港が、積極的にグリーン水素の国際的連携を推し進めている。同港は、2021年3月17日にチリのエネルギー省、23日にオーストラリアの南オーストラリア州との間で、グリーン水素の輸送に関する覚書を締結している。また、直近では、2022年2月4日に、コロンビア政府と覚書を交わしており、水素輸送のノウハウ共有といった面で協力することが期待されている(JETROビジネス短信より)。
 2)に関しては、オランダのインフラ整備事業社であるガスニー社が、既存の天然ガスパイプライン85%を利活用した水素輸送網の構築に取り組んでおり、2027年を目途に完成を目指すとしている(経産省資料より)。


水素の海上輸送・貯蔵能力の向上、その先の「水素社会」の実現に日本の技術力を!
 1)および2)に関しては、大規模プロジェクトかつ既存のインフラ網を活かして取り組まれるため、現地・欧州企業が強みを有する。他方で、3)の水素の海上輸送・貯蔵能力の向上に関しては、ロッテルダム港が水素ハブとして機能してもなお、求められる技術だということで、日本企業の中にも、ビジネスチャンスを見出す企業が現れつつある。
 実は、この海上輸送の技術で期待されているのが、日本の千代田化工建設が開発した「SPERA水素システム」なのだ。同社は、「有機ケミカルハイドライド法」の実用化を通じて、世界に先駆けて水素の大規模貯蔵輸送技術の開発に成功している。2021年7月には、ロッテルダム港湾公社、クーレターミナル社および三菱商事株式会社とともに、SPERA水素システムを活用した水素輸入に関する国際間サプライチェーン構築に関する共同調査を実施することに合意している。
 ロッテルダム港は、化石燃料輸入港から水素輸入港へ、グリーン経済を支える「北西ヨーロッパの水素ハブ」として転換する道を着実に歩み始めており、それに伴う関連産業の業態転換も見込まれる。言うまでもなく、その先に、欧州各国が見据えるのは、「水素社会の実現」だ。この「水素社会」を支える一大水素サプライチェーンの構築に向けて、水素エネルギー関連技術で多くの特許を持つ日本企業には、これまで蓄積した技術を大いに実用化するチャンスがあると言えるのではないだろうか。


(2022年8月)




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