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脱プラ・リサイクルを進めるオーストラリア


自然大国に潜む環境問題

 広大な自然と美しい景観を持つ自然遺産大国オーストラリア。自然豊かなイメージがあるオーストラリアだが、その大陸特有の気候から、長年深刻な水不足に悩まされており、2019年には大規模な森林火災を引き起こした。この大規模火災は、気候変動による温暖化で降水量が減少したことが原因の1つとなっており、30億を超える生物が犠牲となるなど、生態系にも甚大な影響を与えた。この他にも海洋汚染の深刻化も問題視されており、このまま汚染が続くと魚が飲み込んだプラスチックが人体にまで影響を及ぼすことが懸念されている。こうしたオーストラリアが直面する環境問題は国民の環境意識を高めており、オーストラリア政府もまた、国の最重要課題として取り組みを行っている。

環境政策の現状

 オーストラリア政府は連邦政府、州政府・自治権をもつ首都特別区、自治権を持たない地方政府から成っており、環境政策においては基本的にそれぞれの州政府に権限が委ねられている。
 例えば、南オーストラリア州政府は、世界的なカーボンニュートラルの動きに対応し、脱炭素の有効な手段として、グリーン水素を活用していく方針を定めた独自の生産計画を発表した。また、クイーンズランド州では1,000万米ドル規模のクイーンズランド水素産業開発基金を設立した。同様に、西オーストラリア州でも700万米ドル規模の再生可能水素基金を設立した。他にも2020年に南オーストラリア州で、使い捨てプラスチック製品を禁止する州法を成立させた。それに続くように、翌年にはクイーンズランド州でも同様の州法が成立するなど積極的な取り組みを行っている。
 近年では、グローバル化が進み、国際条約や協定の影響から、本来では州政府の権限とされていた環境分野に連邦政府が介入してくるケースも増えつつある。例として、オーストラリア政府は未来燃料戦略(Future Fuels Strategy)や国家プラスチック計画(National Plastics Plan)、国家水素戦略(National Hydrogen Strategy)を発表している。
国家プラスチック計画と企業の取り組み

 州政府、連邦政府はともにプラスチックの削減には積極的に取り組んでおり、国内企業と提携して削減に向けて動いている。連邦政府が発表した国家プラスチック計画では、予防、再利用、海洋保護、リサイクルや再加工の研究、消費者教育の5つの面での指針を示している。
 予防―近年、日本国内でも取り入れられたレジ袋の削減は、オーストラリアでは2018年から導入されている。2021年には南オーストラリア州でカトラリー類やストローなどの使い捨てプラスチックの販売、供給、流通が禁止され、再利用可能かつ堆肥可能な紙や竹、ヤシの葉などを使った代替品を製造するビジネスが始まっている。また、これらの使い捨てプラスチックにとどまらず、テイクアウト用のコーヒーカップや発泡スチロール、堆肥化可能基準を満たさないプラスチック包装製品など多くの製品を段階的に廃止することを検討しており、代替品事業による雇用創出と経済効果が見込まれている。
 再利用―オーストラリアでは、プラスチックを含むリサイクルごみの輸出を禁止するなどリサイクル産業の強化を図っている。スニッカーズやm&m’sを製造するマース社では2025年までにリサイクル可能なパッケージを開発することを目標にしている。リサイクル可能なパッケージの開発以外にも廃プラスチックのリサイクルに向けた取組を行っており、私たちが身近に使う食品、菓子事業のプラスチックを回収し公園のベンチやフェンスの支柱に再利用している。
 また、オーストラリア国内でリサイクル道路の取組が徐々に行われてきている。2021年にはメルボルン南東のバーウィックの住宅街でダウナー社が作るレコノファルト(Reconophalt)を使った道路が建設された。レコノファルト(Reconophalt)とはプラスチックやガラス、インクカートリッジなどの埋め立て廃棄物が由来の道路材で、その長さは国内で最長の2,43kmに及ぶ。完成時には量にして、レジ袋317万枚、インクカートリッジ9万2,000個分が道路のアスファルトとして利用され、その舗装の総面積は17,800平方メートルに及んだ。
 海洋保護―海洋汚染で問題視されているのが、マイクロプラスチックである。マイクロプラスチックは、『歯磨き粉や工業用研磨材、化粧品に含まれているマイクロビーズ、スクラブなど』と『プラスチック製品が太陽光や物理的刺激で劣化・破砕して細かくなったもの』に大別される。
 洗顔や化粧品、ボディソープなどに使うマイクロプラスチックは、排水処理の段階で下水ろ過装置をすり抜けて海や河川に流失してしまっており、オーストラリアでもこのマイクロプラスチックを廃止しようという動きが活発となっている。ロレアルやユニリーバ、ザ・ボディショップなどの美容ブランドは製品に含まれるマイクロビーズをシリカや竹ビーズ、粘土、コーンミール、フルーツカーネル、ナッツシェルなどの天然素材に置き換えている。
 研究―プラスチック廃棄物として埋め立てされるプラスチックを少しでも減らすために様々な研究がなされている。例えば、プラスチックを含む埋め立て廃棄物からディーゼル燃料を精製する研究にオーストラリア政府は200万ドルの投資をしており、これにより廃棄物を管理するコストが年間で530億ドル削減される。
 消費者教育―オーストラリアでは、特定の材料のリサイクルに関する情報が一般家庭・消費者にまで行き届かず、正しくリサイクルできない課題を抱えている。メルボルンを拠点とするリサイクル組織red cycleではオーストラリア全土の有名スーパーマーケットにリサイクルステーションを設置し、軟質プラスチックを収集している。
今後さらに高まる脱プラ・リサイクル

 オーストラリアはこれまでプラスチックなどの埋め立て廃棄物の処理を中国やインドネシア、ベトナムなどのアジア諸国に依存してきた。そうしたなかで環境汚染の観点から受入れ先の国々は輸入禁止と規制の措置を取り始めた。これまで輸出処理に依存してきたオーストラリアは、2019年にリサイクルごみの海外輸出禁止を決定し、国内のリサイクル産業の高付加価値化へ取り組むことに合意した。国内のプラスチックのリサイクルの動きはいまだ少なく、オーストラリア市場で消費される年間550万トンの包装資材のうちリサイクルのために回収されるのは49%で、残り半分は埋め立て処理となっているのが実状である。プラスチックは埋め立て処理されてからも、分解までに時間がかかることや、マイクロプラスチックの海洋汚染が問題となっており、生分解性プラスチックや代替素材の活用が今後も拡大していくだろう。とりわけ海洋汚染問題は生態系への影響や私たちの人体への被害も懸念されており、プラスチックの代替となる素材やその製造技術のニーズは高まっている。
 日系企業が有するプラスチックのリサイクル技術や天然素材などのプラスチック代替品及びその成形加工技術の需要は今後、さらに高まると見込まれる。

                                  

 (2023年2月)



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