オーストラリアの市場調査
オーストラリアは、豊富な資源に恵まれ、鉱物や燃料の輸出によって先進国の中でも比較的良好な経済基盤を有し、安定成長を続けている。日本とのつながりも強固であり、輸出入が継続的に行われているほか、ビジネス分野への投資も拡大している。移民の受け入れによって人口も安定的に増加しており、先進国の中でも堅調な成長が見込まれている。近年では、卸売・流通・小売業や専門・学術研究・技術分野のサービス産業も成長を遂げている。
日系企業がオーストラリア進出を検討する際に、市場動向や製品・サービスのニーズ、参入企業の状況、流通チャネル、価格動向など、市場に関する情報の把握が不可欠である。また、業界ごとにニーズや課題は異なるため、業界動向調査・ニーズ調査をしっかり行うことが重要である。
マーケティングリサーチの方法としては、インターネットを活用した情報収集も有効ではあるが、インターネットだけでは得られない情報も多い。そのため、オーストラリアの市場を十分に理解するには、現地企業や消費者へのヒアリングが必要な場合が多くある。
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オーストラリアの基本情報
【人口】2,665万人(2023年, オーストラリア統計局)
【面積】768.8万平方キロメートル(Geoscience Australia、世界第6位、日本の約20倍)
【GDP】1.7兆米ドル(2024年, 世界銀行)
【一人当たりGDP】64,820米ドル(2023年, 世界銀行)
【首都】キャンベラ
【通貨】オーストラリアドル(AUD)
【地域】オセアニア(大洋州)、英連邦(コモンウェルス)加盟国
【言語】英語(オーストラリア英語)
【宗教】キリスト教、イスラム教、仏教など
【気候】北部:熱帯(雨季と乾季)、中・南部沿岸:温帯~冷帯、中央部:砂漠。南半球であるため温帯でも四季が日本と逆。
オーストラリアの経済と人口
OECD加盟国であるオーストラリアは、先進国の中でも比較的堅調な経済成長を続けている国である。実質GDP成長率は、2014年から2018年までの間、平均2.5%の水準で成長を続けていた。2019年は大規模な森林火災や米中対立の影響により経済が落ち込んだものの、1.9%のプラス成長は維持した。2020年には新型コロナウイルスの感染拡大により、全国的な行動制限が実施され、GDPは大幅に落ち込んだが、その後のロックダウン解除に伴い、経済は回復し、GDPは感染拡大前の水準を上回った。
世界銀行のデータによれば、2023年の一人当たりGDPは64,821米ドルで、前年比では0.3%減少したものの、依然として先進国の中でも高い水準を維持している。2012年以降、一人当たりGDPは2016年を除き、5万~7万米ドルの範囲内で推移している。
失業率については、OECD加盟国の中では平均的な水準にある。2020には新型コロナウイルスの感染拡大により経済が停滞したことから、一時的に悪化したものの、その後、失業率は低下し、2023年は3.7%にまで改善している。
人口に関しては、移民の積極的な受け入れなどの効果もあり、2013年以降、年平均1.5%のペースで増加している。近年は多文化主義政策のもと、さまざまな背景を持つ人々との共生が進んでおり、2024年時点で全人口に占める外国出生者の割合は31.5%に達している。出身地域としてはイングランド、中国、インドなどが多く、特に中国とインド出身者の割合が増加している。
オーストラリアの産業
オーストラリアは資源国として知られており、産業別のGDPにおいて鉱業部門が多くを占めていると捉えられがちである。しかし、実際のGDP構成を産業別に見ると、鉱業の占める割合は約20%にとどまり、他の先進国と同様にサービス業が最大の産業であり、全体の約60%を占めている。ただし、鉱業部門も依然として高い存在感を保っており、2020年から2022年にかけては前年比平均23.6%の成長率を記録している。
製造業に目を向けると、オーストラリア統計局によれば、GDP構成において食品・飲料・タバコと金属関連製造業が全体の43%を占めている。特に食品・飲料・タバコ部門は2012年から2022年にかけて拡大を続けており、製造業の中でも重要な位置を占めている。
鉱業の業種別内訳では、金属鉱石の採石が部門全体の38%を占めており、石炭採掘が28%、石油関連が同じく28%となっている。2012年から2022年にかけて、鉱業全体の年平均成長率は11.5%である。
サービス業の内訳では、卸・流通・小売が全体の21%を占め、次いで専門・学術研究サービスが18%、ヘルスケアが13%、物品仲介・不動産が10%、輸送・郵便・倉庫などの交通・物流系サービスが9%を占めている。
近年、GDPに占めるサービス業の構成比が高まっている。サービス業の増加の大部分は、ヘルスケアと社会福祉の分野における成長によって牽引されている。この業界は雇用の伸びが大きく、過去5年間で31.4%の成長を記録している。オーストラリアでは人口の高齢化が進んでおり、ヘルスケア・社会福祉業界は今後数年間、成長を続けると見込まれる。また、専門・学術研究サービスも雇用の伸びが大きく、過去5年間で18.0%の成長を記録している。
外国からの直接投資も堅調に拡大している。オーストラリア統計局によると、外国直接投資額は2014年から2024年にかけてほぼ倍増し、年平均8.3%で成長している。2023年の国別投資額では、アメリカが657億豪ドルと最大であり、以下、日本(200億豪ドル)、フランス(104億豪ドル)、シンガポール(93億豪ドル)、ドイツ(64億豪ドル)の順である。アメリカは近年、オーストラリアへの最大の直接投資国としての地位を維持している。
産業別の2023年対豪直接投資額をみると、サービス業が549億豪ドル(全体の31%)、鉱業が同額の549億豪ドル(31%)、商業用不動産が358億豪ドル(20%)、製造業および電力・ガス業が145億豪ドル(8%)となっている。
日系企業の進出は1950年代から1960年代にかけて始まり、三菱商事や三井物産、住友商事など大手総合商社が資源や繊維を中心としたビジネスを展開してきた。近年では、製造業、テクノロジー、アグリビジネス、食品・飲料、金融サービス、観光業などの非資源分野への進出も徐々に拡大している。オーストラリアの安定的で透明性の高い制度、整備された規制枠組み、外国投資への開放性、そして堅固な銀行セクターが日本からの投資の拡大につながっている。累計直接投資額において、日本はオーストラリアへのアメリカ、イギリスに次ぐ第3位であり、過去11年間にわたり、毎年継続的に対オーストラリアへの投資額を増やしている有力な外国投資国である。
オーストラリアの貿易
輸出
2012年以降、オーストラリアの貿易は輸出額が輸入額を上回る貿易黒字が続いていたが、2015年には資源需要の低下により一時的に貿易赤字となった。その後、2016年以降は再び貿易黒字が拡大している。
2020年には、新型コロナウイルス感染拡大による国境封鎖や、貿易相手国を含む各国に制限措置の影響で輸出額は一時的に減少したが、2021年には回復を見せた。
2022年の主要輸出先は中国(全輸出額の25%)、日本(13%)、韓国(6%)、インド(5%)である。中国向けの輸出に関しては、2012年から2022年にかけて約1.3倍に拡大したが、2022年は減少している。これは、2020年に中国がオーストラリアからの複数の輸出品に対して貿易制限を課したことが原因である。具体的には、ワインと大麦への関税引き上げや、石炭、ロブスター、綿花の輸出制限などが実施された。その結果、オーストラリアから中国への特定品目の輸出はほぼゼロにまで落ち込んだ。その後、2023年に中国は貿易制限の撤廃を開始し、オーストラリアから中国への輸出が再開された。
輸出品目の内訳をみると、2022年は燃料(全体の43%)、鉱物(27%)、野菜(6%)石・ガラスなど(4%)、動物関連(4%)が主な輸出品目である。鉄鉱石、液化天然ガス、石炭などの燃料と鉱物が、長年にわたってオーストラリアの主要な輸出品となっている。
輸入
輸入額もまた、2015年から2016年にかけて一時的に減少したが、2017年には再び拡大に転じた。2020年は新型コロナウイルスの影響で減少したものの、2021年以降は回復傾向を示している。
2022年の主要輸入元は中国(全輸入額の27%)、アメリカ(10%)、日本(6%)、ドイツ(4%)、シンガポール(4%)である。特に中国からの輸入は、2009年から2018年にかけて約1.8倍に増加している。
輸入品目の内訳は、機械・電子機器(24%)、燃料(15%)、輸送機器(13%)、化学品(10%)、光学機器・時計・楽器・家具・その他雑品(9%)となっている。輸入される機械・電子機器は、産業・鉱業設備から電子機械、通信機器まで多岐にわたっている。なお、オーストラリアは、国内の自動車製造業が比較的小規模であるため、自動車の輸入比率が高くなっている。
対日貿易
日本との貿易は輸出入ともに活発である。オーストラリアから日本への輸出は、2015年から2020年までは減少傾向にあったが、2021年に増加へ転じ、2022年には前年比1.7倍に拡大した。2022年の主要輸出品目の内訳は燃料(75%)、鉱物(13%)、動物(4%)、野菜(4%)である。特に近年、オーストラリアからLNGの輸入が増加している。以前(90年代)はインドネシアがLNGの最大の輸入元であったが、同国の経済成長・国内需要の増加に伴い、LNGの輸出が減少しており、代わってオーストラリアからの輸入が増加している。日本のLNGの輸入量のうち43%、石炭の輸入量のうち66%をオーストラリアが供給している。
一方、日本からの輸入額はほぼ横ばいで推移しており、140~200億米ドルの範囲に収まっている。2022年の輸入額は177億米ドルで、主要輸入品目は、輸送機器(52%)、燃料(17%)、機械・電子機器(15%)、プラスチック・ゴム(5%)、化学品(4%)となっている。
オーストラリアに進出した日系企業と在留邦人人口
日本の外務省によると、オーストラリアを訪問する日本人の数は2013年以降増加傾向にあり、2020年は新型コロナウイルスの影響により一時的に減少したものの、その後再び回復している。2023年時点で在留法人数は99,830人に達している。観光目的の渡航も多いが、留学を目的とする渡航者が特に多い。文部化学省のデータによれば、2023年の日本人留学生数は、アメリカに次いでオーストラリアが2位(9,163名)となっており、治安の良さや快適な生活環境のもとで英語を学べる点が高く評価されている。
オーストラリアに進出する日系企業の拠点数はほぼ横ばいで推移しており、2023年の拠点数は844か所である。2021年の業種別内訳では、卸・小売が最も多く173拠点(日系企業拠点数の20%)、製造業が148拠点(18%)、宿泊・飲食サービスが89拠点(11%)、鉱業・採石業が57拠点(7%)などとなっている。
オーストラリアと日本の経済的な結びつきは歴史的に強く、日本は長年にわたり鉄鉱石や石炭などの鉱物資源をオーストラリアに依存してきた。近年では、鉱業に加え、製造業など多様な産業分野での成長が進んでいる。環境への意識が世界的に高まり、地球温暖化や異常気象、森林火災などへの懸念が高まる中、環境に配慮した資源開発とその利用は、日本とオーストラリアの両国が連携して取り組むべき課題である。
また、広域的にはASEAN、大洋州、インドを含む経済圏との連携が強化されており、TPP11などの枠組みにおいても、オーストラリアは戦略的に重要な位置を占めている。こうした国際的な経済環境の変化に対応するためにも、オーストラリアで事業を展開する日系企業は、現地の市場特性や需要構造を的確に捉えた企業戦略の策定が不可欠であり、ニーズに対応した製品・サービスの投入や流通・販売チャネルの構築において綿密な市場調査が必要と考えられる。
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