タイのビジネスニュース:2025年9月後半

高齢者福祉予算が3,650億バーツに拡大 財政赤字と税制改革課題に(9月17日)
タイの予算局は、2026年度の高齢者福祉予算が3,650億バーツになる見込みであることを発表した。高齢者福祉予算は10年前より50%増加しており、2017年度は2,440億バーツ、2020年度には3,350億バーツであった。
2026年度の高齢者福祉支出は、3兆7,800億バーツに上限が設定されている総支出予算の約10%を占める。タイ政府は60歳以上の高齢者に
年齢別で月額600~1,000バーツの手当を支給しており、60歳から69歳までは月額600バーツ、70歳から79歳までは月額700バーツ、80歳から89歳までは月額800バーツ、90歳以上の高齢者には月額1,000バーツが支給されている。タイは、高齢化が進んでおり、2024年にはタイの人口の20%が60歳以上である「高齢社会」に突入した。更に2031年には人口の28%以上が高齢者となる「超高齢社会」になると予測されている。
政府支出の7割は公務員給与や医療、国民皆保険制度、高齢者手当などの経常支出が占め、公共投資支出はわずか8,640億バーツと総支出の
23%である。そのため、政府は20年以上にわたり財政赤字を余儀なくされており、2026年度もこの赤字を補填するために8,600億バーツの借入を見込んでいる。
財政政策局(FPO)の報告によると、2023~2025年の赤字は債務を安定的に維持できる水準を上回り、2023年度はGDP比2.80%(安定水準2.47%)、2024年度は3.72%(同1.82%)、2025年度は4.91%(同1.72%)と拡大した。
暫定財務大臣は、現在の税収がGDP比15%と同規模国より低く、6,000億バーツ規模の増収が必要だと指摘し、付加価値税率の引き上げを
検討している。
タイのペットフード輸出が世界第2位に(9月18日)
タイ商務省は、タイがペットフードの世界第2位の輸出国となり、2024年の輸出額が前年比29%増の26億8,000万米ドルになる見込みであると発表した。
タイのペットフード輸出は昨年、世界総額の10%を占めた。最大の輸出国はドイツで、昨年は32億8,000万ドル(ペットフード輸出総額の
12.3%)を占めた。その他の主要輸出国は、米国(25億2,000万ドル、同9.4%)、ポーランド(24億1,000万ドル、同9%)、フランス(23億1,000万ドル、同8.6%)であった。昨年の世界のペットフード市場は好調で、輸入総額は265億ドルとなり、主要輸入市場はドイツ、米国、英国、ポーランド、カナダであった。
なお、2024年のタイの主要輸出先は米国で、輸出額は8億6,800万ドル(前年比47%増)となり、ペットフード輸出総額の32.4%を占めた。次いで日本(3億2,900万ドル)、オーストラリア(1億6,700万ドル)、イタリア(1億6,500万ドル)、マレーシア(1億3,800万ドル)が
続き、これら5つの市場で輸出全体の62.3%を占めた。
ペットフード市場の成長は、ペット飼育数の増加に加え、高齢化や家族規模の縮小といった人口動態の変化が背景にあるとされている。
タイが焼畑由来の飼料用トウモロコシ輸入を禁止(9月22日)
タイは焼畑農業で生産された飼料用トウモロコシの輸入を禁止する方針を示した。この措置は、バンコクなどで定期的に発生する深刻な大気汚染への対応と米国からの輸入拡大の両面を意図している。
2026年1月1日から、飼料工場は輸入トウモロコシが焼畑農業によって生産されていない供給源からのものであることを証明する必要がある。1月1日から始まる移行期間中は、輸入業者、輸出国の政府機関、または国際機関による認証を受けることが可能であるが、大気浄化法の施行後はより厳格な規制が適用され、違反した場合は1年間の輸入禁止となる可能性がある。
タイは従来、ミャンマー、ラオス、カンボジアといった近隣諸国からトウモロコシを輸入しているが、これらの国々では焼畑農業が盛んに
行われている。焼畑によって発生した煙が風でタイ北部・北東部に流れ込み、大気汚染を悪化させているため、その対応として今回の措置が
取られた。
一方、トウモロコシ生産国である米国とは、関税交渉により19%の関税が課されることになったが、トウモロコシや大豆粕、その他の農産物を含む米国製品の90%に対する関税撤廃が提案された。今回の規制は、持続可能な大気汚染対策として実施されると同時に、トウモロコシ生産国である米国からの輸入を促進し、米国との関税交渉における市場開放の一歩とも見られている。
タイ政府新たな配車プラットフォーム規制を施行(9月23日)
タイ政府は、配車プラットフォームの安全性・透明性・信頼性を高めるため、10月に新たな規制を施行すると発表した。
新規制では、プラットフォーム事業者を単なる仲介から「積極的なサービス規制者」へと位置づけ、運転手・乗客の本人確認(ThaID等の信頼できるデジタルIDの活用)、運行条件の順守確認、違反への制裁、関係当局への報告を義務化する。運転手は有効な公的運転免許と公共サービス登録車(以下、Ror Yor 18)を使用し、ログインのたびに本人確認を受ける必要がある。乗客は、認証済みドライバー情報の閲覧、合法車両の利用、GPSによる走行追跡、明確な運賃表示が担保され、価格競争の減少が期待される。
一方で登録要件、とりわけRor Yor 18は業界の大きな課題となっている。配車アプリ運営会社のGrab社は適切な免許取得と車両登録を促進し、遵守ドライバーへのインセンティブや主要5県のタイ運輸省陸運局(DLT)窓口での書類支援を拡充しているが、車両名義制限(所有者本人のみ登録可)がローン名義やフリート車両利用ドライバーの障害になっている。Line Man社とWongnai社も、公共運転免許・車検・Ror Yor 18登録に加え、公共車両の高い保険料や減価償却リスクが負担だと指摘し、当局にオンライン事前申請の導入を提案した。また、Lalamove社は制度定着には時間が必要との見解で、Bolt社は現場指導と専用拠点で数万人規模の公的免許取得を支援している。
今後、主要プラットフォーム各社は、登録支援の強化と規制順守の徹底を進め、安全で合法的な配車エコシステムの構築を図るとしている。
ブラザーが電子廃棄物対策としてプリンター下取りを開始(9月24日)
印刷ソリューションプロバイダーのBrother Commercial (Thailand)社は、増大する電子廃棄物の問題に対処するべく、古いプリンターを
回収して同社の最新機種を購入した際に割引を行う下取りキャンペーンを開始した。
タイのプリンター市場は拡大を続ける一方、競争の激化と消費者の嗜好の変化により、製品価値重視で環境に配慮したイノベーション製品への需要が高まっている。同社によれば、タイでは年間44万トン以上の電子廃棄物が発生するが、適切にリサイクルされるのは1%未満に留まっている。同国では毎年80万台以上のプリンターが新規購入されており、同社は廃棄機器を環境・ビジネス価値に転換する好機とみている。
このキャンペーンでは、ブランドやモデルを問わず古いA4プリンターを下取りに出すことで、ブラザーの対象8機種の購入時に最大2,000
バーツの割引を受けることができる。同社は、電子廃棄物問題に取り組むと同時に顧客ロイヤルティ強化を図るとしている。
タイにおける家計の平均債務額が前年比22%増、4年ぶりの高水準に達した(9月25日)
タイ商工会議所大学(UTCC)は、タイの家計平均債務額が前年比22%増の74万596バーツとなり、4年ぶりの高水準となったことを発表した。
UTCCが実施した家計債務に関する調査によると、生活コストの上昇や突発的な支出に収入が追い付かないことが主な要因であることが明らかになった。銀行の融資引き締めを背景に、正規債務比率が低下し、非公式債務が急増している。
家計債務残高は第1四半期時点でGDP比87.4%と依然高水準で、その内訳はクレジットカード46.8%、住宅ローン40.0%、自動車ローン
37.1%などが中心である。クレジットカード債務の主因は、電子機器や耐久財、事業経費、既存債務返済、教育・旅行・医療などの支出で
あり、収入不足への対応としては、39.9%が借入(カードのキャッシング、銀行・金融会社、家族等)、32.9%が支出削減を選択した。
UTCCは、政府に対し、生活費の共同負担策「コン・ラー・クルン」などの景気刺激策や農産物価格対策、雇用創出、公式融資の強化を提言した。これらにより来年の経済成長率が3~4%へと改善すれば、、家計債務の改善も期待できるとしている。
バンチャック社が事業再編で石油強化とバイオ燃料拡大(9月26日)
大手総合エネルギー企業のバンチャック社は、世界のエネルギー消費が依然として化石燃料に依存する状況に対応しつつ、収益拡大を図る
ため事業再編を進めていることを発表した。
同社は経済を推進する上で炭化水素燃料の重要性とそれと同時に再生可能エネルギーの需要が高まっていることを認識している。しかし、
再生可能エネルギー発電所は競争の激化に直面しており、収益が減少している。これにより、同社は発電所のインフラ開発に関する投資プロジェクトを計画することとした。
事業再編計画の2番目として、同社は石油の探査と生産における新たなプロジェクトを推進する。これは石油上流事業における生産能力の増強を見込んでいる。また、事業再編計画の3番目では、石油精製所の生産能力と、エタノール、バイオディーゼル、航空機用バイオ燃料である持続可能航空燃料(SAF)を含むバイオ燃料の生産拡大に取り組む。
計画の4番目と5番目については、それぞれ炭化水素製品の取引と炭化水素関連の新規事業に注力する。同社は、2026年1月から実施されるこの計画により、同社の利払い・税引き・減価償却前利益(EBITDA)は今年400億バーツから、2030年には1,000億バーツに達するとしている。