ベトナムのビジネスニュース:2025年11月後半

農業・環境省が低排出型高品質米の輸出拡大が加速したと発表(11月16日)
農業・環境省は、2025年10月までの米輸出が720万トン・37億USDとなり、高品質米および低排出型米が輸出構造の中心に移行したと発表した。平均輸出価格は511USD/トンであり、数量よりも価値・金額に重点を移しつつある。こうした流れを受け、政府と企業は「ガオ・ベト・グリーン(Gao Viet xanh/低排出米)」のブランド化を推進し、約2万トンが同ブランドで流通、うち500トンが日本向けに輸出された。日本市場での採用は、品質基準・衛生要件・環境要件を満たしたことを示す重要な成果である。小売大手COOPmartやAEONも取扱いを検討しており、持続可能な消費が新たな需要を生み出している。
2025年には「低炭素」Japonica米が日本向けに出荷され、技術基準をクリアしたことで高付加価値市場へのアクセスが拡大した。これは長期戦略である「100万ヘクタール・高品質・低排出型稲作プロジェクト」の進展とも連動している。同プロジェクトはIRRI(国際稲研究所)の支援を受け、温室効果ガス削減、気候変動適応、農家所得向上を同時に実現する枠組みとして評価されている。
一方で、ベトナム稲産業協会(VIETRISA)は、低排出型モデルのバリューチェーン連携がまだ不十分であり、企業・流通網の参画の深度、試験規模、排出量の測定ツール整備などに課題が残ると指摘する。特に、農業部門のメタン排出の多くを占める稲作においては、統一的な測定・報告・検証(MRV)体制の構築が急務である。専門家は、国際的な協力の強化と透明な測定体系の導入がカーボンクレジット市場参入の鍵になるとみている。
全体として、ベトナムの米産業は「量より質」へと大きく転換しつつあり、品質・環境責任・科学技術を柱に、国家ブランドとしての価値向上に向けた新たなステージへ進んでいる。
ELCOMが高速道路ITS整備を前倒しで完了(11月18日)
ELCOM(ベトナムの交通ITS企業)は、北南高速道路の複数区間で高度道路交通システム(ITS)の整備を計画より大幅に前倒しで進めていることを発表した。
2026年1月1日の自動料金徴収開始に向け、同社が担当するMai Son–QL45、QL45–Nghi Son、Vinh Hao–Phan Thiet、Phan Thiet–Dau Giayなどの区間で、実施工事が想定以上のペースで進んでいる。
特にMai Son–QL45およびQL45–Nghi Son区間では、監視カメラ、管制センター、重量計測設備などITSの80~85%の施工が完了している。約1か月という短期間の整備となり、計画より約4週間早い進捗となった。ELCOMは、11月中に全区間の引渡しを完了させ、12月から施主側が試験運用できる状態にする計画である。
Vinh Hao–Phan ThietとPhan Thiet–Dau Giay区間(総延長200km超)においても順調に整備が進んでおり、ハードウェア・ソフトウェアともにELCOMが一括で供給している。Vinh Hao–Phan Thiet高速のプロジェクト責任者によれば、ITSと重量管理システムは既に完成段階にあり、2026年初頭の料金徴収開始に向けて最終調整が進められている。
多数の路線を同時並行で進めるには、プロジェクト管理、施工チームの調整、サプライチェーン管理、技術力が不可欠であり、ELCOMは「集中管理・分散施工」モデルにより施工品質と速度を両立させている。
さらに同社は、指令センターソフト、画像処理モジュール、重量計測システムなどITSの主要ソフトウェアを自社開発し、現場での即時対応を可能にすることで、調整・試験期間を大幅に削減した。ハード・ソフトの両面で独自技術を有する点が、前倒し施工とリスク低減の基盤になっているとしている。
IRRIとVIETRISAがメコン地域の稲わら循環型モデル構築を提唱(11月19日)
IRRI(国際稲研究所)とVIETRISA(ベトナム稲産業協会)が、メコン地域における稲わらの循環型利用促進に向けた政策・投資機会を発表した。
カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイを含む5カ国100名超が参加し、稲わらを「環境負荷」から「戦略的バイオマス資源」へ転換する方向性が議論された。RiceEcoプロジェクトでは、稲わら管理の機械化と循環型農業モデルが実証され、CO2排出量を3トン/ha削減することや有機肥料活用による増収が確認されている。加えて、農業流通アプリEasyFarmは、農家とロールパッカー、集荷業者を結び付け、稲わら流通の基盤となりつつある。
IRRIは、稲わらは問題ではなく解決策であると述べ、堆肥、飼料、きのこ栽培など多様な用途が排出削減と新たな収益源を生むと強調した。農業・環境省は、稲わら管理を1百万ha低排出稲作計画およびNet Zero 2050に直結する戦略要素と位置づけ、制度整備、HTX(協同組合)中心のバリューチェーン再構築、カーボンクレジット統合の3点を優先課題として挙げた。
VIETRISAは、稲わら管理が低排出稲作の核心であり、大きなビジネスチャンスであると指摘した。研究側では、稲わらの主用途はきのこ栽培、飼料、野菜生産であることが示され、市場の未整備や基準の欠如が課題とされた。企業事例では、稲わらを高付加価値化し、農家所得向上に貢献する取り組みが報告された。
ASEAN学習連合は各国の成功と失敗を共有し、越境協力を通じて持続可能な循環モデルを形成しつつある。特にカンボジアではGIS(地理情報システム)分析による焼却実態把握と堆肥化モデルの導入で生産性改善が確認された。総じて、稲わら1億トン規模の潜在力を活かすには、市場制度、MRV整備、デジタル追跡基盤の構築が不可欠とされる。
ベトナム農業当局が100万ヘクタール高品質・低排出稲作の成果を発表(11月21日)
ベトナム農業当局は、メコンデルタで進む「100万ヘクタール高品質・低排出稲作プロジェクト」の初期成果を公表し、メコンデルタの稲作モデルが大きく進展したことを発表した。プロジェクトは生産コストの大幅削減、3.7~4.6トンCO2の排出削減、収量向上、農家所得改善という顕著な成果が確認され、稲作が“グリーン生産”へ本格的に転換しつつある。
11月21日にカントーで開催された高品質・低排出稲作の普及に関する会議には、中央・地方の政府機関、企業、国際機関が参加し、政策課題などが共有された。国家農業普及センターは、プロジェクトが当初目標を上回る成果を挙げ、農業生産の考え方に大きな変化をもたらしたと強調した。低排出米はすでに日本へ輸出され、高評価を得ており、農業省はMRV(測定・報告・検証)制度を導入し、日本との投資・技術協力強化も進めている。
農業普及センターは2024~2025年にかけて、カントー省、ソクチャン省、チャーヴィン省、ドンタップ省、キエンザン省の5省で7つのパイロットモデルを展開し、3作で5,000haに拡大した。結果として生産コストは8.2~24.2%削減、種子量30~50%削減、肥料30~70kg/ha削減、用水30~40%削減、農薬散布1~4回減という成果が確認され、収量は2.4~7%増、農家所得は12~50%増となった。温室効果ガスは2〜12トンCO₂/ha削減され、収穫後の焼却削減にも寄与した。
普及拡大の鍵となるのが、メコンデルタに1,000組織・1万人規模で展開されているコミュニティ農業普及員(KNCD)である。技術研修やMRV支援、協同組合(HTX)支援、企業連携などを行い、“現場の腕”として技術移転を畑レベルで加速している。
一方、国際稲研究所(IRRI)は、技術導入のコスト、農家の能力不足、市場連携の弱さという3つのボトルネックを指摘しており、PPP推進、デジタル基盤やAIの活用、透明なデータシステム整備、R&D支援の重要性を提言した。同会議ではIRRIと国家農業普及センターが5年間の戦略的協力覚書に調印し、「Rice Crop Manager」を統合した電子農業普及アプリの開発など、持続可能な稲作の基盤強化を進めるとしている。
商工省iDEAとShopeeがASEAN向け越境EC輸出を推進(11月25日)
ベトナム商工省傘下の電子商取引・デジタル経済局(iDEA)とShopee(東南アジア最大級ECプラットフォーム)を運営するSea Limitedはシンガポール本社で覚書を締結し、ベトナムのMSME(超小規模・小規模・中小企業)のASEAN向け越境EC輸出を共同で促進する2年間のパイロットプログラムを開始したと発表した。
新プログラム「Shopee EZXports: Vietnam Everywhere」では、輸出市場の多様化や地域経済統合の促進、MSMEのデジタル変革加速を目的に、3つの重点施策を展開する。第一に、Shopee International上に「Vietnam Pavilion(ベトナム・オフィシャル館)」を設置し、高品質なベトナム製品をASEAN消費者に紹介する。第二に、約2,000社のMSMEを対象に、越境ECに必要なスキルやツールを提供する能力強化プログラムを実施し、出品、物流、広告運用、海外消費者対応などのスキル向上を支援する。第三に、「Vietnam Digital Export Week」や「ASEAN Sale with Vietnam Brand」といった大型販促キャンペーンを展開し、ベトナムブランドの露出認知向上と販売拡大を図る。
Shopee側は既存の越境輸出支援プログラムであるSIP(Shopee越境販売支援プラットフォーム)により、すでに35万以上のベトナム販売業者のASEAN・台湾市場を支援してきた。「Shopee EZXports」は、このSIPを補完する位置付けであり、2025年には企業の海外店舗運営を支援するDirect Sellingも本格化する。
今回の覚書締結により、両国間のデジタル貿易協力の深化と、スタートアップ・イノベーション連携をさらに強化し、ASEAN域内のデジタル経済機会を開拓するとしている。
OCB・OCBS・HAGLが戦略的協力を締結(11月25日)
ベトナム東方商業銀行(OCB)、OCB証券(OCBS)、Hoang Anh Gia Lai(HAGL:大手農業・畜産企業)は、グリーンファイナンスと持続可能な開発の推進を目的とした戦略的協力協定を締結したことを発表した。
今回の協力は、金融と農業を結び付け、グリーンファイナンスと持続可能なモデルを推進する枠組みとして位置付けられている。HAGLは、同社が成長軌道を取り戻し、大規模なグリーン農業モデルへ転換を進めている中で、信頼できる金融パートナーによる継続的支援が不可欠だとしている。同社は、今回の協定により経営安定化と資源集中が進み、今後の発展に向けた重要な後押しになるとの考えを示している。
OCBSは今後、HAGLに対して財務アドバイザリー、ESG・IR標準化を含む包括的サポートを提供し、事業構造の最適化、投資家との関係構築、戦略策定などを支える方針としている。金融・農業の両分野を結ぶバリューチェーン強化により、企業価値の最大化と地域経済への貢献を見込む。
OCBは、資本フローと信用ポートフォリオのグリーン化を推進し、HAGLの持続可能な開発戦略を支援する方針を示している。同社はグリーンファイナンスを中核戦略とし、IFC(国際金融公社)・DEG(ドイツ開発金融機関)など国際機関との連携を拡大しており、2024年には再エネ、グリーンビルディング、持続可能農業を中心とするグリーンクレジット残高が前年比約30%増加したと報告している。
今回の締結は、ベトナム政府が掲げる2050年ネットゼロ目標および経済のグリーン化政策にも沿うものであり、金融と農業を統合する持続可能なエコシステム構築に向けた先導的な取り組みであるとしている。
GrabとEBOOSTがEV普及拡大に向けて協力を強化(11月27日)
Grab(シンガポールに拠点を置く配車アプリ運営企業)とEBOOST(EV充電インフラ企業)は、ベトナムの電気自動車の普及拡大を目的に戦略的協力協定を締結したことを発表した。
両社は、ベトナムにおけるEV利用環境の整備を強化するため、充電インフラへのアクセス向上とネットワーク拡大を柱とする協力覚書を締結した。これは、GrabのドライバーがEBOOSTの充電ステーションを容易にアクセスできる環境を整備するだけでなく、グリーン交通・グリーントランスフォーメーションの加速、持続可能な交通インフラ構築を後押しするものである。
Grabにとって同提携は、ドライバーのEV移行を支援するエコシステム構築に向けた重要なステップである。GrabはこれまでもEVメーカー、金融機関、充電ソリューション企業との連携を強化しており、今回の協力もその一環としている。Grab Vietnam社は、充電インフラの整備がEV運用コストの削減とドライバーの収入改善に寄与するとしており、同社の持つデータ・ネットワークを活用し、充電ステーションの共同開発やEVインフラ整備を支援する意向を示した。
EBOOSTは、スマートで安全性の高い充電インフラの提供を通じてベトナムのグリーンモビリティを促進する方針を掲げており、2025年11月時点で全国300カ所以上のステーションを運営し、1万人超のEVユーザーにサービスを提供している。Grabとの連携により、EVの利便性とアクセス性を高め、EV利用の拡大を後押しする方針である。
両社は、EBOOSTの充電ネットワークやGrabドライバー向けの安定料金プランや長期優遇パッケージを検討し、オンライン・オフラインの双方で広範にプロモーションを実施する。また、API連携によりEBOOSTの充電・バッテリー交換ステーション情報をGrabアプリ内に統合表示することで、リアルタイムでのデータ提供や決済処理の最適化を図る。さらに急速充電システムの技術基準統一に向けた協力も進め、全国でスマートかつ安全なEV充電インフラの拡大を共同で推進するとしている。

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