ドイツの市場調査
ドイツ市場は成熟したマーケットではあるものの、近年は人口の増加や輸出額の増加を背景に、ヨーロッパ地域の中でも安定した成長を続けている。さらに、他のヨーロッパ域内の先進国と比較して日系企業の進出が多く、これから進出を検討する企業にとっても、比較的整ったビジネス環境が整備されている状況である。ドイツは他の先進国と比べ、GDPに占める製造業の比率が高く、自動車や電気機器、化学産業などの分野においてグローバルに展開する企業が数多く存在している。貿易に関しては、EU域内が全体の約60%を占めつつも、特定国への依存度が低い点は、経済の安定性という観点から評価できる要素である。
また、ドイツは長期的な気候変動対策として、温室効果ガス排出量を削減し、2045年までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げている。目標を達成するため、再生可能エネルギーの拡大と持続可能なエネルギーシステムの構築を進めている。
一方、ドイツ国内の社会情勢においては、近年、出生率が低下傾向にある一方で、移民の受け入れによって人口は増加していたが、移民政策の厳格化により、やや減少している。また、人口の高齢化も進展している。
日系企業がドイツ進出を検討する際に、市場動向や製品・サービスのニーズ、参入企業の状況、流通チャネル、価格動向などの市場に関する情報の把握は不可欠である。また、業界によって、ニーズや課題は異なるため、業界動向調査・ニーズ調査をしっかり行うことが重要である。
マーケティングリサーチの方法としては、インターネットで情報を収集することもできるが、インターネットだけでは得られない情報も多くあり、ドイツの市場を十分に理解するためには、現地企業や消費者へのヒアリングが必要な場合も多くある。
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ドイツの経済と人口
ドイツの2023年におけるGDPは約4兆5,000億ドルであり、ヨーロッパ最大の経済規模である。ドイツのGDPは2013年から2018年にかけて緩やかな成長が続いていたが、2020年には新型コロナウイルス感染拡大の影響により落ち込み、2022年にはロシア・ウクライナ戦争によるエネルギー危機の影響で一時的に減少した。しかし、2023年には回復基調に入り、過去最高を記録している。
2024年におけるGDPの構成比は、個人消費が52.8%、政府支出が22.1%、総資本形成が21.1%、貿易が4%となっている。GDPに占める貿易の構成比は、2020年にコロナ禍の影響で一時的に低下し、2022年にはロシア・ウクライナ戦争やエネルギー価格の高騰により2.5%にまで下がったが、2023年以降は4%前後へと回復している。
一人当たりGDPは2023年時点で約54,343ドルであり、近年は平均1.7%程度の成長率を示している。主なGDPの成長要因としては、輸出の回復、個人消費の拡大、政府の経済支援政策が挙げられる。
ドイツの一般政府財政収支は、2013年から2019年まで概ね0.1%から1.9%の範囲で黒字で推移していた。しかし、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、財政収支は急激に悪化し、-4.4%の大幅な赤字となった。その後も2021年から2024年にかけて財政は赤字が続き、-2%から-3%台で推移している。赤字幅は縮小しているが、コロナ禍以前の黒字水準には戻らない状況にある。一方、国防費に関しては、ウクライナ戦争を受けて、1,000億ユーロ規模の特別予算が編成されている。
人口に関しては、EU圏内で最大であり、2023年には約8,312万人に達した。なお、2022年までは増加傾向にあったが、移民政策の厳格化に伴って2023年にはわずかに減少した。
出生率に関しては、2014年の1.47から上昇し、2016年には1.60の最高値となった。その後は1.53~1.58の間で推移していたが、2022年から急速に低下し、2023年には1.39まで落ち込んでいる。このことから近年の人口増加は主に移民の増加によるものであると考えられる。年代別の構成においては、40歳以上の人口比率が上昇しており、特に80歳以上の高齢者の割合は2013年の5.4%から2023年には7.2%に増加しており、高齢化の進展が顕著である。今後は、高齢化や出生率の低下が社会構造に与える影響が懸念されている。
労働市場においては、ドイツ連邦統計局の調査によると、2014年から2019年まで、ドイツの失業率は継続的に低下していたが、2020年に新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、失業率は5.9%に上昇した。その後、2021年から2022年にかけては経済回復とともに失業率は低下し、2022年には5.3%となったが、2023年には5.7%、2024年には6.0%と再び上昇傾向を示している。これは景気の減速やエネルギー価格高騰などの要因によるものだと考えられる。
ドイツの産業
ドイツにおける産業別のGDP構成比は、一次産業が約1%、二次産業が約30%、三次産業が約70%となっている。過去10年間においては、二次産業および三次産業が安定した成長を遂げた一方、一次産業は規模が小さく、かつ目立った変動は見られなかった。全体の約7割を占める三次産業の内訳としては、公共、教育、医療分野が約29%と最も大きく、次いで運輸、宿泊、外食分野が約23%、ビジネスサービス業が約17%、不動産業が約14%である。
製造業においては、自動車産業が全体の売上高の約24%を占めており、ドイツの中核をなしている。続いて、工業機械が約12%、食品加工が約9%、化学品が約7%、金属加工が約6%と続く。これらの分野には、世界的な競争力を持つ企業が数多く存在しており、自動車産業ではフォルクスワーゲンやBMW、化学品ではBASF、電気機器ではシーメンスなどが代表的である。
海外直接投資については、2014年にドイツ国内で多くの資産を保有するオランダからの大規模な資産引き揚げの影響で、全体としてマイナスとなったが、その後は増加傾向に転じた。2021年には約741億ドルと過去最高を記録し、2023年は約520億ドルとやや減少したものの、高水準を維持している。近年の投資動向に影響を与えた主な要因としては、EU 域内における企業の構造改革やロシア・ウクライナ戦争などが挙げられる。
国別では、2023年も引き続きアメリカからの直接投資額が最も多く、次いでルクセンブルク、フランス、スペイン、アイルランドが主要な投資元となっている。これらの国々は、ドイツにとって主要な投資パートナーである。
また、ドイツは長期的な気候変動対策として、2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で65%、2040年までに88%削減し、2045年までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げている。目標を達成するため、再生可能エネルギーの拡大と持続可能なエネルギーシステムの構築を進めてきた。原子力発電は2022年にすべて停止し、石炭火力発電も2030年までに段階的廃止する方針を示していた。しかし、ロシア・ウクライナ戦争により、エネルギー安全保障が緊急の課題となった。ドイツはロシア産ガス依存の低減に取り組む一方で、再生可能エネルギーの導入加速や電力貯蔵設備の整備を進めている。短期的には一部で石炭火力発電の再稼働が避けられず、これに伴うコスト増加やCO2排出量の増大が課題となっているが、脱炭素とエネルギー安定供給の両立を目指す姿勢を維持している。
ドイツの貿易
ドイツ連邦統計局によると2024年のドイツの輸出額は約1兆5,483億ユーロ、輸入額は約1兆3,077億ユーロである。ドイツは2014年から2019年にかけて、安定的に年間2,000億ユーロを超える貿易黒字を維持していたが、2020年には新型コロナウイルスの世界的流行によりサプライチェーンが混乱し、輸出需要が減少したことで、黒字額は一時的に縮小した。その後は回復し、2024年は2,400億ユーロを超える貿易黒字を計上している。
輸出
2024年の主要輸出品目は、自動車(全体の17%)、工業機械(14%)、化学品(9%)、電子機器(8%)であり、その他にも医薬品や電気機器が輸出全体の大部分を占めている。
輸出先の国別では、アメリカ、フランス、オランダ、ポーランド、中国が上位を占める。中でもアメリカは一貫して輸出額が増加しており、2024年時点で最大の輸出先(輸出全体の10%)となっているが、今後に関しては、トランプ大統領の関税政策がドイツ経済に大きな影響を与える可能性がある。一方、中国向け輸出は2022年をピークに減少傾向にあり、フランスやオランダ向けも2022年以降は微減している。
2024年の国別輸出構成比は、アメリカがトップで全体の10%、次いでフランスとオランダが各7%、ポーランドと中国が各々6%である。
輸入
2024年のドイツの主要輸入品目は、自動車(約11%)、電子機器(約10%)、電気機器と化学品(各約8%)、工業機械(約7%)である。国別では、中国が約12%と最大の輸入相手国であり、次いでオランダとアメリカ(各約7%)、ポーランド(約6%)、イタリアとフランス(各約5%)、チェコ(約4%)が続く。これら上位7か国以外からの輸入が約47%を占めており、輸入先の多様化が見られる。
中国からの輸入は2022年にピークを迎え、その後はやや減少したものの、依然として最大の輸入相手国である。オランダやアメリカからの輸入も2022年頃まで増加していたが、その後は減少傾向を示している。ポーランド、イタリア、フランス、チェコといった近隣EU諸国からの輸入も、2022〜2023年にかけて高水準に達した後、やや減少傾向にある。これらの動向は、コロナ禍以降の経済再開に伴う輸入増加やエネルギー価格の高騰と、その後の反動・下落などが影響していると考えられる。
地域別の貿易構成比では、EU諸国向けの輸出割合はこれまで48〜49%台で推移していたが、2024年には50.6%に達し、過去7年間で最も高い水準となった。一方、EU諸国からの輸入割合は常に50%を超えており、2024年には53.7%に上昇している。
対日輸出入
ドイツの対日輸出額は、2020年は約17.4億ユーロであったが、コロナ禍からの経済回復により2024年には約21.6億ユーロへと増加し、その後も約20億ユーロ台の水準を維持している。ドイツ全体の輸出に占める対日輸出の割合は1.3~1.4%で大きな変動はみられない。主要な輸出品目としては、医薬品(対日輸出の26%)、自動車(22%)、工業機械(12%)、化学品および電子機器(各11%)が挙げられる。
対日輸入額に関しては、2020年の約21.4億ユーロから2022年には約25.4億ユーロへと増加し、2023年にピーク(約25.6億ユーロ)に達した後、2024年には約22.6億ユーロに減少している。全体としてはコロナ禍後の経済回復による一時的な増加の後、やや減少した。ドイツ全体の輸入に占める対日輸入の割合は2020年の2.1%から2024年には1.7%へと低下している。主要な対日輸入品目は、電子機器(21%)、工業機械(18%)、自動車(14%)などである。
ドイツに進出した日系企業と在留邦人人口
ドイツにおける在留邦人数はイギリスに次いでヨーロッパでは2番目に多く、2019年以降、年々増加増加傾向を示し、2024年は43,513人となった。
また、ドイツはヨーロッパで最も多くの日系企業が進出している国であり、2023年時点の拠点数は1,947拠点である。これは、二番目に多いイギリス(928拠点)を大きく上回っており、2017年の拠点数と比較して約7%増加している。
2023年時点におけるドイツ進出日系企業の業種別内訳をみると、製造業が最も多く979拠点で、次いで非製造業が876拠点、建設業が9拠点、農業・林業が2拠点、その他分類不能・不明が68拠点である。2017年の業種別の拠点数と比較して、すべての業種において拠点数は増加している。ドイツに進出している非製造業の内訳では、卸売・小売業が最多であり、非製造業全体の約30%を占めている。その他の非製造業の拠点数の比率は、宿泊・飲食業が19%、情報通信業13%、サービス業および運輸・郵便業がそれぞれ約9%となっている。
ドイツは世界有数の経済大国であり、自動車、電気・機械、化学産業など製造業を中心に高い技術力を有する企業が多数存在する。また、環境保護においても世界的に高い水準の政策を推進しており、「環境先進国」として注目されている。これまで多くの日系企業が進出してきたことから、今後もビジネス面での可能性は十分にあると考えられる。しかし、ドイツ市場としては比較的安定しているため、今後新たに進出を検討する企業や現地企業との連携を目指す企業にとっては、入念なビジネスプランの策定・設計が求められる。
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