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各国情勢コラム

シンガポールの水資源問題への取り組み

シンガポールと水問題

 シンガポールが独立した1965年以降、同国では国を挙げて水資源問題に取り組んでいる。シンガポール政府によると、過去5年間の年率の人口増加率は1.1%で、小さな都市国家にもかかわらず堅実に人口が増加している。シンガポールの公益事業庁は、人口増加と経済の成長によって、国内の水需要は2060年までに約2倍になると予測している。

 シンガポールは、熱帯雨林気候で日本と比較しても降水量が多いが、山間部のように貯水できる地形がなく、雨水がそのままマリーナ湾に流れてしまうといった問題を抱えている。そのため、自国で利用する水の多くを輸入に頼っており、1962年に隣国のマレーシアと水協定を締結している。協定締結後、隣国マレーシアからの水輸入に依存していたが、政府は協定の満期となる2061年までに水の完全自給自足を目指している。

 現在のシンガポールは、水を国外からの輸入に依存していることが課題となっており、国内での完全自給自足に向け、国内の貯水池、NEWater(下水再生水)、海水淡水化という3つの柱で課題解決に取り組んでいる。

 本コラムではシンガポールの水問題に対する取り組みとその技術に着目する。

水の輸入依存問題と完全自給自足に向けた3つの取り組み

1)輸入水

 シンガポール国立水道局によると、シンガポール国内の水使用量は1日あたり約4億3,000万ガロンで、そのうち、およそ半分をマレーシアから輸入している。

 1962年にマレーシアと結んだ水協定により、シンガポールは現在、安定した水の輸入が可能である。2011年にテブラウ川とスクダイ川を水源とする契約が終了したが、ジョホール川を水源とする契約は2061年までとなっており、シンガポールはジョホール川から1日最大2億5,000万ガロンの水を汲み上げることができる。なお、シンガポール政府は契約が失効する2061年には輸入水をゼロにする方針を掲げている。

2)貯水池

 現在、シンガポール国内には17ヵ所の貯水池があり、国土の3分の2に降った雨を各エリアにある貯水池に集めることができる。その中でも、2008年に開設した国内最大の貯水池であるマリーナ・バラージは10,000ヘクタールの集水域を持っており、単体で国土の約6分の1の雨水を集めることが可能である。シンガポール政府は、「Variable Salinity Plant」と 呼ばれる最新技術の導入を進め、海岸線付近からの集水を行うことで、2060年までに集水地域の割合を国土の90%にまで高めることを計画している。

3)NEWater(下水再生水)

 下水再生水とは、都市下水に通常の処理を行い、さらに精密ろ過、逆浸透膜処理、紫外線殺菌という3段階の高度な浄化処理を施して再利用する水を指している。シンガポールはこの下水再生水を「NEWater(ニューウォーター)」と名付けた。NEWaterは2003年に実用がスタートし、2008年に広域供給が始まった。2025年4月現在、7か所の再生施設・再生センターが稼働している。

 下水再生水は、主に工業用水として利用されているが、貯水池に放水し、再度通常の浄化処理を行うことで飲用利用も可能である。現状、飲用としての利用はまだ少ないが、シンガポールで最も歴史あるクラフトビール醸造所・Brewerkz(ブリューワークス)は100%再生水を使用したビール「NEWbrew(ニューブリュー)」を製造し、期間限定ではあるが販売している。

 シンガポール国立水道局によると、NEWaterは現在、水需要全体の約40%を賄うことができるとしているが、政府は2060年までに水需要全体の55%をNEWaterで賄うことを目標としている。

4)海水淡水化

 海水淡水化とは海水に逆浸透膜を使用して、溶解した塩分やミネラルを取り除くことで飲用利用可能な水を作り出す方法を指している。

 逆浸透膜とは、原水をろ過する際に使われる「ろ過膜」の1つである。非常に微細な編み目のフィルターでできており、他のろ過膜よりも高いイオンレベルでの浄水が可能である。細菌ウイルス類であれば100%、農薬やダイオキシンなどの有害物質であれば95%以上も取り除くことができる。

 海水淡水化プラントは2005年より運用を開始しており、シンガポール国立水道局によると、2022年時点で水需要全体の約25%を5か所の海水淡水化プラントで賄っている。政府は2060年までに水需要の30%を海水淡水化水で賄う計画を掲げている。

シンガポールの水資源問題には日本企業も貢献している

 シンガポールは水資源問題に1965年から取り組み、現在は水ビジネスの中心といわれるまでに成長した。その背景のひとつには、日本企業の高度な浄水技術の貢献がある。

 例えば、日東電工はシンガポールの浄水に取り組む日本企業の1社である。2000年にシンガポールの排水利用プロジェクトに参画し、同国の公益事業庁と共同で廃水再利用事業を進めてきた。その後、2018年に海水と貯水池の2種類を水源とする水処理プラント『Keppel Marina East Desalination Plant(通称KMEDP)』向けに逆浸透膜(RO膜)を受注している。

 また、東レもシンガポールの浄水に取り組む日本企業であり、NEWaterプロジェクトや海水淡水化プラントなどシンガポールにおいて大型プラントに逆浸透膜エレメントの納入実績を持っている。同社は2009年に「東レシンガポール水処理研究センター」をシンガポールに設立し、シンガポールの水資源を統括・管理する公益事業庁及び経済開発局の支援のもと、主に膜利用水処理技術を中心とした研究開発を行う予定を発表した。現在はアセアン・南アジア地域での研究拠点をインドの「TORAY INDIA WATER RESEARCH CENTER」に移しているが、事業はシンガポールにある東レアジア(TORAY ASIA PTE LTD)を拠点に行っている。

Newaterと海水淡水化の課題

 現在、シンガポールの水需要の大部分を賄っている輸入水と貯水池は、気候変動の影響を受け易く不確実である。その点、NEWaterと海水淡水化は降雨に依存しないという強みがある。この2つの浄水処理方法は、高度な浄水技術が活用されているが、多くのエネルギーが必要となり、造水量に比例して二酸化炭素の排出量も増大するという課題がある。今後は、エネルギー効率が高く、CO2の排出を抑制できる技術が望まれる。

2026年8月

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