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各国情勢コラム

未来をつなぐ軌道:ベトナム高速鉄道プロジェクト

なぜ今、ベトナムに新幹線?

 急速な経済成長と人口増加に伴い、ベトナムでは都市間輸送のニーズが年々高まっている。中でも、北部の首都ハノイと南部の経済中心地ホーチミン市を結ぶ約1,560kmの南北縦断ルートにおいては、現行の鉄道・道路インフラでは輸送需要に対応しきれず、物流・人流のボトルネックとなっているのが現状である。

 また、航空便への依存度が高まる一方で、空港容量の限界、CO₂排出の増加、遅延リスクといった課題も顕在化しており、より持続可能かつ大量輸送に適した交通手段の導入が求められている。

 こうした背景の中、ベトナム政府はハノイ〜ホーチミン間に高速鉄道(新幹線型)を導入する構想を本格化させており、国家インフラ計画においても重点プロジェクトとして位置づけている。技術面・資金面での海外連携が不可欠な中で、高度な鉄道技術と運営ノウハウを有する日本企業にとって、本プロジェクトは戦略的な参入機会となり得る。

動き出した国家プロジェクト

 現在、ベトナム国内における鉄道網は全体的に老朽化が進んでおり、主要幹線であるハノイ〜ホーチミン間(約1,560km)も、フランス植民地時代から使用されている単線・狭軌の鉄道路線に依存している。所要時間は30時間以上に及び、貨客ともに輸送効率が著しく低いのが実情である。その結果、都市間の大量移動は主に航空機や高速道路に偏り、交通渋滞や環境負荷、空港混雑といった社会的コストが年々増大している。

 こうした課題を受けて、ベトナム政府は「国家鉄道網マスタープラン(2021–2030年)」および「2045年ビジョン」において、ハノイ〜ホーチミン間における高速鉄道(新幹線型)導入を優先的かつ戦略的プロジェクトとして明記している。計画によると、全線が標準軌の複線電化方式で整備される見通しである。

 2024年初頭には、交通運輸省が事業化調査報告書を最終提出し、政府は総額約676億ドル(16.3兆円)に上る投資枠を段階的に導入する構想を発表した。ハノイ〜ヴィン(北部)およびニャチャン〜ホーチミン(南部)の2区間(約665km)を優先整備区間として設定し、2045年までの全線開業を目指すロードマップを策定している。

 また、このプロジェクトは国家単独ではなく、外国とのパートナーシップを前提とした資金・技術・運営ノウハウの導入を想定しており、日本や韓国、ドイツなどが有力な候補として挙げられている。特に日本は、過去にJICAを通じたフィージビリティスタディを実施済みであり、新幹線技術とオペレーションの面で高い親和性を持つ。

 このように、南北高速鉄道計画は、ベトナムの経済回廊を強化し、都市間の移動時間を半減させる。また、「国家変革インフラ」としての位置付けを有しており、同時に気候変動対策や地域格差是正、持続可能な成長の観点からも、極めて重要な国家プロジェクトとされている。

広がる日本企業のビジネス空間

 この高速鉄道プロジェクトは、日本企業に多くのビジネスチャンスをもたらしている。例えば、インフラ建設では、トンネルや橋梁、駅舎など専門技術が必要な分野で日本のゼネコンの活躍が期待される。車両や関連システムでは、新幹線の安全性・信頼性が求められ、長期のメンテナンスや運営支援で安定収益も見込める。さらに、ダイヤ作成や保守管理など運営ノウハウの提供も有望である。加えて、日本の駅ナカビジネスの導入も、収益性と利便性向上の面でベトナムにおいても有望なビジネスモデルとなり得る。

競争と共創:日本企業の強みを生かした展開

 ホーチミン市の都市鉄道1号線(ベンタイン〜スオイティエン、全長約20km)は、日本の円借款により建設され、2024年末に同市初の大量高速輸送システムとして開業を迎えた。本プロジェクトには、日立製作所(車両および電気・機械設備の供給)、清水建設・前田建設工業(地下区間の施工)、三井住友建設(駅構内工事)、住友商事(高架区間の建設)、日本工営(現ID&Eホールディングス)(設計・コンサルティング)などの日本企業が参画している。これら日本企業の施工実績は、インフラの信頼性向上と輸送効率化に大きく貢献し、政府からもその波及効果が高く評価されている。

 一方、ベトナムの鉄道インフラ市場には他国企業の参入も進んでいる。中でも中国企業は、自国資金とセットの低価格オファーを強みに、ハノイ市の都市鉄道建設に積極的に関与している。代表例が中国支援によるハノイ都市鉄道(カットリン〜ハドン)線である。このプロジェクトは、設計変更や施工上の遅延、契約追加により事業費は当初見積の約1.7倍に膨張した。また、2021年に開業したものの、運営面では人材やノウハウの不足も顕在化し、今後の人材育成支援の必要性が浮き彫りとなった。

 日本企業にとって、このような競争環境下で優位性を維持するためには、単なる技術提供にとどまらず、コスト面での対応力や現地人材のトレーニング支援を含めた総合的なパッケージ提案が不可欠である。日本は既にソフト支援にも注力しており、JICAを通じた鉄道学校の能力強化など、ソフト面での支援も行われている。ハード・ソフトの両面を組み合わせた包括的な取り組みにより、ベトナム側が求める真のパートナーシップに応えることが可能となるだろう。

 ベトナムの高速鉄道プロジェクトは、日本企業にとって技術・運営面でのビジネスチャンスが豊富だが、中国・韓国企業の参入により競争も激しい。特に中国企業は低価格提案を行ってくるケースが多いものの、その後の契約変更や費用超過、運営ノウハウ不足などのリスクがある。一方、日本は新幹線技術や都市鉄道での実績を活かし、インフラ建設、運営管理、駅ナカビジネスなどで優位性を持つ。今後、ハードとソフト両面で総合的な提案が不可欠となり、持続的な収益機会につながる可能性が高い。

2026年8月

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