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各国情勢コラム

インドネシアにおけるパーム油の川下化政策

 パーム油は見えないところで私たちの生活に浸透している。アイスクリーム、クッキー、チップス、冷凍食品などといった食料品から、洗剤、石鹸、口紅などの日用品に至るまで、その汎用性、安定性、高いコストパフォーマンスから、パーム油は幅広い商品に使用されており、私たちの日常生活になくてはならない存在となっている。そのパーム油の多くはインドネシアで生産されている。

パーム油大国インドネシア

 インドネシアは世界最大のパーム油生産・輸出国である。インドネシアパーム油協会(GAPKI)によると、2024年のインドネシアのパーム油生産量は5,276万トンであり、その半分の約2,954万トンは輸出され、世界市場の55%を占めている。一方、金額ベースで見ると、同年のインドネシアからの輸出額は277.6億米ドル(440兆ルピアに相当)に達しており、これは2024年のインドネシアの輸出総額の10%を占めている。

 政府は2011年以降、国内パーム油の資源の輸出の促進だけではなく、パーム油を中間財あるいは完成品に加工してから輸出する「川下化」政策に本格的に力を入れている。この政策は、インドネシアが価格の低い資源(CPO: パーム原油)の輸出に依存しないようにする一方、国内で付加価値を高めた中間財または完成品を輸出することによって、インドネシアの経済にとってより大きな利益を生み出すことが狙いである。

 パーム油アグリビジネス戦略研究所(PASPI)によると、現在インドネシアではパーム油の川下化政策として以下の3つの産業の拡大に注力している。

  • オレオフード産業

 パーム油を精製パーム油(中間製品)に加工する産業と精製パーム油をベースとした最終製品を生産する産業

  • オレオケミカル産業

 パーム油を加工して基礎オレオケミカル製品から特殊オレオケミカル製品までを生産する産業

  • バイオ燃料産業

 パーム油をバイオディーゼル(FAME: 脂肪酸メチルエステル)やバイオ炭化水素(グリーンディーゼル、グリーンガソリン、グリーン航空燃料)などの燃料に加工する産業

 今回は、上記の3つの産業について紹介していく。

オレオフード産業

 オレオフード産業は、国内生産の粗パーム油(CPO)または粗パーム核油(CPKO)を中間製品・最終製品に加工している。これらの製品は直接消費または食品産業の生産原料として使用されている。

 パーム油から加工される中間製品としては、調理用油脂、ベーカリー用油脂、チョコレート・菓子用油脂、代替乳製品用油脂、機能性油脂などである。また、パーム油ベースの最終製品としては、食用油、マーガリン、チョコレート、麺類、アイスクリーム、ビスケット、乳幼児用ミルクなどである。上記の食品に加えて、パーム油に含まれる微量栄養素・生物活性化合物は、健康食品や医薬品にも利用されている。

 インドネシア産業省によると、2022年のオレオフード産業としては、3,647万キロリットルの精製パーム油(RPO)を生産し、そこから2,247万キロリットルのRBD(精製し、漂白し、脱臭した)オレインと562万キロリットルのRBDパームステアリンを生産している。そのうち、輸出はRPOが839万キロリットル、RBDオレイン(パーム食用油)の輸出が1,416万キロリットル、RBDパームステアリンの輸出が303万キロリットルである。

オレオケミカル産業

 オレオケミカルとは、ヤシ油やパーム油などを原料とした植物性油脂または牛脂などの動物性脂肪から派生した様々な種類の化学製品である。オレオケミカルは石油由来の化学製品に比べて再生可能かつ生分解性があり、一般的に有毒な重金属を含まないため、環境に優しいという利点を有している。それため、近年、オレオケミカルへの切り替えが進んでおり、今後もその傾向は強まると予測されている。そのなかでも、パーム油は1990年代からオレオケミカルの原料として商業的に使用されており、他の植物油よりも供給量が豊富でかつ安価なことから、急速に需要が拡大している。

 インドネシア油脂化学工業協会(APOLIN)によると、インドネシアのオレオケミカルの輸出量は年々増加している傾向にあり、2015年の171万トン(13億5,000万米ドル相当)から、2024年は486万(43億3,300万米ドル相当)に増加している。

 現在、インドネシアのオレオケミカル産業としては、主に脂肪酸、脂肪アルコール、グリセリン、メチルエステル、ソープヌードルなどのパーム油中間体を生産している。現在のインドネシアのオレオケミカルの生産能力は年間1,132万トンであり、その内訳としては、脂肪酸が455万トン、脂肪アルコールが212万トン、グリセリン88万3,700トン、メチルエステル193万トン、ソープヌードル183万トンである。

バイオ燃料産業

 バイオ燃料とは、植物油、動物性油脂、使用済み食用油などの有機物から作られる再生可能な燃料であり、化石燃料への依存を減らすための解決策の一つである。

 インドネシアでは、2006年に自動車用の燃料としてのバイオ燃料の使用に関する政府規則が発行されており、それ以降、国内におけるパームバイオ燃料の生産量は増加の一途をたどり、世界最大級のパームバイオ燃料生産国となった。

 バイオ燃料の普及開始当初の2009年にB-2.5プログラム(軽油97.5%:バイオ燃料2.5%)が実施された。インドネシアバイオ燃料製造者協会(APROBI)によると2009年のバイオ燃料の生産量は19万キロリットルであったが、その後、混合率が徐々に増加し、2024年の時点ではB-35プログラム(軽油65%:バイオ燃料35%)が実施され、生産量は1,393万キロリットルに達した。その内の94%は国内で消費され、約3万キロリットルは輸出されている。また、政府は2025年1月にB-40プログラム(軽油60%:バイオ燃料40%)を発表し、本格的な実施を進めている。これによって今後のバイオ燃料の生産量も増加すると期待される。なお、現在のバイオ燃料の国内生産能力は1,714万キロリットルである。

パーム油川下産業に対する政府の手厚い支援策

 国内パーム油の川下化を加速させるために、政府はパーム油川下産業を国家の重点産業として設定し、一連の優遇措置を講じている。例えば税制優遇措置、パイオニア産業に対する免税措置(タックスホリデー)、研究開発・職業訓練に対する超控除税、産業資本財に対する輸入関税免除、港湾サービスと一体化したパーム油川下工業団地の開発などがあげられる。

 その中でも、オレオフード産業の成長促進には優遇輸出税制が寄与している。優遇輸出税制は、川下へ行くほど輸出関税が低くなるように設計されている。例えば、食用油の輸出関税は、原材料(CPO)の輸出関税の約40%であり、または中間製品の輸出関税の約55~80%となっており、オレオフード産業の成長を後押ししている。

 また、オレオケミカル産業に対しては、生産過程において不可欠な工業用ガスを低価格で供給するガス優遇政策が実施されている。これにより国内製品の価格競争力が高まり、輸出量の増加につながる。

 バイオ燃料産業に関しては、バイオディーゼル義務化政策が大きな役割を果たしている。同政策は、ディーゼル燃料に一定の割合でバイオディーゼルを混合することを義務付ける政府の政策である。この政策によって、国内のバイオ燃料産業の発展が促進され、エネルギーの輸入依存を低減している。

今後のパーム油川下産業の予測

 今後もパーム油の川下産業は成長が見込まれている。この背景としては、新興国を中心に経済成長が進み、消費者のライフスタイルの変化によるオレオフード・ケミカルの需要拡大、環境に優しい製品を使用することへの消費者の意識の高まり、再生可能エネルギーの需要拡大、世界市場における石油価格の上昇など、いくつかの要因があげられる。

 また、今後は健康食品や医薬品など、より高付加価値の川下製品の展開を進めていく方針である。例えば、インドネシア油脂化学工業協会(APOLIN)では、トコフェロール(ビタミンEの一種)やベータカロテン(ビタミンA)の国産化を目指している。

 パーム油には、他の植物油に比べビタミンAとEが多く含まれているが、インドネシアには、ビタミンAとEを製造するオレオケミカルメーカーはおらず、輸入に依存している。今後は、このような高度な技術を必要とする高付加価値のパーム油川下製品の展開に取り組んでいくことが予測されるため、これらのビジネスを進める上でのパートナーが必要になることが予測される。

2026年10月

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