ベトナムDX市場が熱い!AI・デジタル革命が切り拓く未来

ベトナムが描くデジタル未来図
近年、ベトナムではAI(人工知能)やデジタルトランスフォーメーション(DX)の導入と推進が、国の成長戦略の中核に据えられている。政府は2020年に「国家DXプログラム」を打ち出し、2030年までにデジタル経済の比率をGDPの30%まで引き上げることを目標に掲げている。2023年時点での数値は16.5%に達し、一定の進展が見られるが、DXの普及は依然として全国的に広がっているとは言い難く、特に地域間格差や人材不足などの課題が指摘されている。
それでも、近年、ベトナム政府はAIの導入やDXの推進を進めており、その取り組みが、国際的に一定の評価を得ている。たとえば、国連の「2024年電子政府開発指数(EGDI)」では、ベトナムは初めて「非常に高い(Very High)」グループに入り、世界193か国中71位(ASEAN内で5位)にランクインしている。また、世界銀行による「GovTech成熟度指数2022」では、ベトナムは「B(高い)」グループと評価され、これはASEAN内で中位から上位に位置する水準である。さらに、「Government AI Readiness Index 2023」(Oxford Insights)においても、ベトナムはASEAN内で第5位となり、政府のAI分野への関心の高まりと政策整備の進展が反映されている。
政府は、2030年までに国民の50%がデジタル口座を保有し、全世帯の80%に高速光ファイバー通信を整備することを目指している。これにより、金融・教育・医療へのアクセス改善や情報格差の解消が期待されている。また、「2030年AI国家戦略」のもとで国家AIイノベーションセンターの設立や人材育成も進められており、ベトナムがASEANにおけるAI応用拠点としての地位を築くための布石が打たれている。 ベトナムのDXは依然として発展途上にあるものの、制度整備と政策的な後押し、ならびに国際的な評価の向上により、今後の成長可能性は極めて高いといえる。
進化を後押し!企業を支えるDX政策フルパッケージ
こうした国家戦略を実現するために、ベトナム政府は強力な制度的枠組みと多角的な支援策を講じている。2021年には首相主導の「国家デジタル化委員会」が設置され、政府各機関が連携しながらDXを推進する体制が整えられた。行政の効率化を目的に、2019年には「国家公共サービス・ポータル」が導入され、住民票の取得や税金の支払い、企業登録などがオンラインで完結できるようになった。
また、中小企業への支援も積極的に行われており、DX導入のためのデジタルツールの提供や、専門家によるコンサルティング支援への補助金制度が整っている。中には、導入費用の最大50%を国が負担する制度も存在し、リスクの高い初期投資を抑えることが可能となっている。加えて、データセキュリティや個人情報保護のための法整備も進行中で、民間企業が安心してデジタル技術を取り入れられるような制度的な土台が構築されつつある。
ベトナムDXの主戦場3業種を徹底解剖
DXの波は、ベトナム経済を牽引する主要産業にも徐々に広がりつつある。ただし、その導入はまだ限定的であり、主に一部の先進的な企業によって先行的に取り組まれているのが現状である。
たとえば製造業では、IoTセンサーによる設備管理やAIを活用した品質検査の自動化など、スマートファクトリーの導入が進められている事例が見られる。特に繊維・アパレル業界はベトナムの代表的な輸出産業であり、この分野においても一部企業がデジタル技術を活用し、原材料の調達から製品出荷までを一元管理するサプライチェーンマネジメントを導入することで、在庫の最適化や無駄の削減を実現している。
また、農業分野でも、DXの導入が進められている。高原地帯では温室環境の自動制御システムが導入されており、温度・湿度・光量をリアルタイムで調整することで、品質の安定化と生産性の向上が図られている。さらに、メコンデルタではコメの栽培にドローンや遠隔管理型の水管理システムが活用されており、天候リスクへの対応力が強化されている。スマート農業によって、気候変動に強い農業体制の構築が進められている。
なお、金融サービスでは、スマートフォンを活用したキャッシュレス決済が一般化し、国民の50%以上が電子決済アカウントを保有するようになった。特に「MoMo」などの電子財布アプリは、送金、公共料金の支払い、Eコマースとの連携など、多機能な金融エコシステムとして拡大している。コロナ禍を経て、Eコマースも爆発的に成長し、物流・配送インフラの整備と共に地方への普及も加速している。
このように、各産業分野でのDX推進は進展しているが、その一方で人材の不足、インフラの地域格差、そして中小企業の資金やノウハウの不足といった課題も依然として存在している。こうした制約への対応は、今後の持続的成長に向けて重要な鍵となる。
未来をともにつくる:ベトナムDXと日本企業の可能性
ベトナムのDX市場は、日本企業にとって大きなビジネスチャンスとなっている。参入事例としては、みずほ銀行がフィンテック企業MoMoに約2億ドルを出資し、金融分野におけるデジタル化を後押ししている。住友商事は、ベトナムの医療保険管理会社であるInsmart Joint Stock Companyに出資し、オンライン診療や薬の宅配など、医療サービスのDXを推進中である。また、富士通とFPT(ベトナム最大のIT企業)の連携によるスマート農業ソリューションの実証事業では、クラウド技術を活用した環境制御システムや自動潅水システムなどの栽培管理システムが導入されている。
こうした実例が示すように、日本企業は自社の技術力を活かしながら、ベトナムの社会課題や経済ニーズに応じたソリューションを提供することで、現地との信頼関係を築きつつある。
今後、日本企業がベトナムDX推進により深く関わっていくためには、技術支援に加え、人材育成、現地企業とのパートナーシップ強化が不可欠となる。単なる輸出や販売ではなく、現地とともに価値を創造していく「共創」の姿勢が求められている。
また、製造業、農業、サービス業といった幅広い分野での実践的な連携を通じ、現場の課題を理解しながら解決策を共に設計する取り組みが、競争力の源泉となる。さらに、ベトナム政府が進める「デジタル国家」構想の実現を支援する形で、インフラ整備、教育、法制度への関与も視野に入れた中長期的な関係構築が、日本企業のプレゼンス強化に大きく寄与するだろう。
(2026年10月)