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産業育成に力を入れるルクセンブルク


ヨーロッパの小国・ルクセンブルク
 ルクセンブルクは人口57万6000人、面積は2,586㎞2と神奈川県ほどの面積しかない小さな国である。しかし国民一人当たりGDPは105,829ドルと世界第一位であり、実質成長率は2013年から2016年まで3.5%~4.8%の間を推移している(2012年は-0.8%と落ち込んだ)。
 ルクセンブルクはもともと鉄鋼業を中心とした産業構造であったが、1970年代のオイルショック以降金融業を中心とした産業への転換を図り、成功を収めている。近年はリーマンショックを契機に金融業中心の産業構造から脱するため、情報通信技術、物流、環境技術、宇宙など新たな産業の育成を国策として掲げている。

物流拠点としての可能性
 ベルギー・ドイツ・フランスに囲まれた内陸国であるルクセンブルクは、パリ、フランクフルト、ロンドン、チューリッヒ、アムステルダムといったヨーロッパの主要都市へのアクセスが良い。このような地理的利便性から、ヨーロッパにおける物流のハブとしての役割が期待される。ルクセンブルクにはヨーロッパで有数の国際航空会社であるカーゴルックス航空があり、日本との航空貨物便は石川県の小松空港とルクセンブルク・フィンデル空港間で週4回就航(直行便3便、シカゴ経由1便)している。
 日本とヨーロッパ間の貿易において船便と航空便の所要時間を比較した場合、日本とヨーロッパ間の船便の航行時間はおよそ1か月程度、それに対して航空便による輸送時間はおよそ2日から1週間程度となっている。一般的に航空便は高価格・短時間、船便は低価格・長時間という特徴があるため、長時間の保存ができない一部の生鮮食品や、運賃負担力※の高い半導体などの電子部品、ブランド品などは航空便の輸送が適しているといえる。
 例えば、日立物流が子会社化したMars Logistics Group Inc.では、インターモーダル事業(複数の輸送機関を組み合わせて運ぶ複合輸送サービス)の拠点をルクセンブルクに置いている。
 また、製造業では、TDK、ファナックなどが進出している。ファナックは、配送センターを設立し、出荷前のロボットの設定など、高付加価値の物流活動を行っている。
※価格に占める輸送費の割合。低いほど運賃負担力が高い。

各国に先立って宇宙資源開発を進める
 日本からは楽天株式会社など金融業を中心に進出しているが、金融業だけでなく新たな産業の発達が期待され、様々な分野において可能性がある。特に宇宙空間での資源開発や商業利用に関しては力を入れており、2016年に宇宙産業に関する戦略「SpaceResources.lu」を発表した。
 この戦略の一環として民間企業が採掘した宇宙資源に関してその所有権を認める法律が2017年8月から施行され、民間企業による宇宙資源開発を奨励している。宇宙開発事業を行うアメリカのベンチャー企業であるディープ・スペース・インダストリーズはルクセンブルクに進出し、政府と共同で小惑星の探索計画を進めるなど、国外ベンチャー企業との連携も図っている。
 
恵まれた社会環境に惹かれて多くの企業が集まる
 ルクセンブルク発の有名な企業は「Skype(スカイプ)」を開発した旧スカイプ・テクノロジーズ社であるが、国内・国外を問わず、企業を取り巻く政治・経済環境も魅力的である。税制面では資本参加免税などの優遇税制の適用により、他のヨーロッパ諸国と比較して税負担が軽い。このメリットによって世界から数多くの企業が進出しており、財務省によると2014年時点のルクセンブルクの対内直接投資残高は名目GDPの約58.4倍となっている。また、高い生活水準に支えられて労使関係は良好で、このこともルクセンブルクに進出する企業にとっては魅力となっている。

恵まれた環境の裏にある問題
 ルクセンブルクに進出する際の問題の一つが豊かさの裏にある賃金の問題である。経済協力開発機構(OECD)によると、ルクセンブルクは一人あたりの年間平均賃金が62,580ドルと世界で最も高い(2015年)。二つ目は先に述べた税制優遇措置に関して他のヨーロッパ諸国から違法な租税回避を行っているのではないかとの指摘を受けており、欧州委員会は米国Amazon.comに対するルクセンブルクの租税優遇措置に関して調査を行っている。日本とルクセンブルクは租税条約改正議定書を2011年から発行しており、違法な租税回避を防止する枠組みができているが、調査の結果を受けた今後の税制変更などには注意が必要となる。
 金融業を中心に発達してきたルクセンブルクは、これまでとは異なる形でさらなる成長を目指しており、今後日欧EPAによって今後日本とヨーロッパの関係が深まることが予想される中で拠点の一つとしてのポテンシャルを秘めている。ただ、一方で豊かさの裏にある高い賃金、恵まれた税制の裏にあるタックスヘイブン問題など、考慮しなければならない点もあるといえるだろう。


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