中小企業も続々!日系製造業のタイ進出
「東南アジアの優等生」タイの製造業
かつてコメの生産・輸出を中心とする農産国だったタイの輸出額は、1970年の7億ドルから2016年には2,153億ドルと300倍以上に増加し(タイ商務省、2017年)、主要輸出品は農産物から工業製品へとシフトした。2016年、タイで最も高い輸出総額シェアを占めるのは自動車・同部品(12.2%)となっており、他には自動データ処理機械・同部品(7.9%)、電子集積回路(3.58%)、ゴム製品(3.06%)、化学製品(2.84%)などの工業製品がタイから世界へ輸出されている(タイ商務省、2017年)。
2015年、タイは1,944,417台の自動車を生産する世界第12位の自動車生産基地となり(OICA、2016年)、世界で生産されるハードディスクドライブ(HDD)の4割を生産する工業国となった。そこで、今回はなぜタイの工業がこれほどまでに発展したのか、そして、日本企業のタイ進出に今後どのような動きが予想されるのか述べたい。
外需に柔軟に対応することで「農業国」から「工業国」へ
農業国だったタイが工業に力を入れる契機となったのは、1958年10月のサリット政権の誕生だった。サリット以前のピブーン政権では、中華系商人から経済活動を取り戻そうとタイ自国企業による工業化が推進されたが、当時、工業化の担い手となる自国企業は存在しなかった。その結果、国営企業がその役割を担うことになったが、国営企業による非効率的な運営や汚職はむしろ経済発展を妨げ、タイは芳しい成果を得ることができなかった。
そこで、その後政権を担ったサリットは、民営主導型の経済開発を推進した。その政策は、国家はインフラ整備のみを行い、不足する資金や技術は外資の導入によって補うというものだった。タイ政府は「投資委員会(BOI)」を設置、加えて1960年には「新産業投資奨励法」も制定することで、外国投資を促進した。
1962年には自動車産業が奨励産業に指定され、1962年にはトヨタと日産、65年にホンダ、66年にいすゞがタイで生産拠点を構えた。このような自動車工業の発展は、組み立てメーカーだけでなく部品メーカーなどのすそ野産業の発展にもつながった。
積極的に外資導入を目指すサリットの方針は、「東南アジアのデトロイト」化を目指したタクシン時代まで受け継がれ、タイの産業集積が進展していった。いまやASEAN有数の製造業生産拠点となっているタイだが、1960年代から外需に柔軟に対応する姿勢が成長の鍵だったと言える。
町工場からタイへ!日系企業タイ進出の今
1985年、プラザ合意によって急激な円高となり、日系企業は積極的な海外進出を展開した。タイは日本製造業の工場拠点として一層の注目を集め、現在もタイに進出する日系企業は増加している。近年、日系企業のタイ進出を目指す動きは大企業にとどまらない。2006年には、公益財団法人「大田区産業振興協会」がタイ最大の工業団地開発運営企業「AMATAコーポレーションPCL社」と連携し、東京都大田区の中小企業向け賃貸集合工場「オオタ・テクノ・パーク(OTP)」を開設した。OTP入居企業は、賃貸施設の提供のほか、免税などの優遇措置を取得するためのサポートや情報提供など、タイの工場施設を利用するための支援を受けることができる。2017年現在、OTP入居企業として、「精密プレス部品」「樹脂形成品」「自動車用ハーネス」「冷間鍛造部品」などを扱う工場が実際にタイに工場を構えている。これらの工場は、タイ進出後もタイでの企業PRや市場開拓などのソフト面の支援も受けることができる。
また、2011年にはタイ主要銀行「カシコン銀行」と日本の「静岡銀行」が業務提携し、タイへ進出済み、あるいは進出予定の取引先へのサポートを行っている。近年ではこのように、まずは地方銀行が融資のベース、情報収集をすることで日本の地方企業のタイ進出をサポートしようとする動きが見られ、今後は企業規模に関わらず多くの日系企業がタイへ進出していくことが予想される。
タイ工業化の歴史を振り返ると、日本は常にタイと密接に関わり、大きな影響を与えてきた国だと言える。近年では、中国がタイでの存在感を増してきたが、「日本製」は多くのタイの人々に根強い信頼と人気を誇っている。また、近年はタイから日本への食品などの輸入も増加しており、今後は、日タイの双方向的な交流がますます活発になっていくことが考えられる。このようななかで、日本の中小企業のタイ進出に一層の期待がかかっている。
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