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「ヨーロッパ最後の秘境」と呼ばれるジョージアのワインとインバウンド政策


高台からみた首都トビリシ

実は身近な国?のジョージア
 
 みなさんは、ヨーロッパと中央アジアの間に、日本にとっても身近な国があるのをご存知だろうか。例えば、日本のスーパーの乳製品コーナーに行くと、必ずと言ってよいほど目にする「カスピ海ヨーグルト」がある。女性を中心にダイエット食品として人気のこのヨーグルト、実は100歳以上のお年寄りが多いジョージア(旧グルジア)の長寿の秘訣として有名な現地の発酵乳製品「マツォーニ」の製法を参考につくられている。関連して、最近日本でも美容や健康に良いとして認知度が高まってきたミネラルウォーターのBORJOMI(ボルジョミ)は、炭酸水では珍しく60以上のミネラルを含有する栄養価の高さを誇る。これは、コーカサス山脈の豊かな自然による湧き水で作られており、ジョージアが世界に輸出する有名な商品の1つである。
 文化の面だと、ジョージアでは映画が世界的にも存在感を示しているものとして挙げられる。最近では東京の映画館「岩波ホール」が創立50周年記念として、無声期から現代までのジョージアの名作映画19作を上映する「ジョージア映画祭」を開催した。この映画祭により、ジョージア映画の魅力を知った方もいるのではないか。
 さらに、ワインの発祥はフランスやイタリアといったよく出回っているワインの産地ではなく、8000年以上前のジョージアなのである。その伝統的な製造方法はユネスコの世界遺産に認定され、昨今ではエコな製法として再価値化されている。
 このように、私たちの日常にある食品の中には、そのルーツをジョージアに持つものがあり、実はそんなに遠い国でもなかったりするのだ。

ジョージアの基本情報
 
 ジョージアは、古くから多くの民族が行きかうシルクロードの中継地点であり、中央アジアの交通の要衝であった。面積は日本の5分の1の6万9,700平方キロメートルであり、人口は約370万人である。現在はロシア、アゼルバイジャン、アルメニア、トルコ、チェチェン共和国といった様々な国々と国境を接し、各国の紛争の影響を強く受けてきた歴史を持つ。旧ソ連圏であり、ソ連の政治家のスターリンはジョージアのゴリという街出身である。1991年のソ連の崩壊によりジョージアのGDPは急落したが、2003年のバラ革命により国内政治の腐敗を一掃したうえで民主化と経済発展のための取り組みを行った結果、2014年までに旧ソ連圏で最も早い経済成長を遂げた。その結果、2018年にもEase of Doing Business Indexでも世界6位に認定され、ビジネス環境が良い国として世界に認知されている。また、最も腐敗が少ない国の1つとして、黒海周辺の地域では珍しく、180か国中41位にランクインしている(隣のカザフスタンは124位、アゼルバイジャンは152位)。
 ジョージアの主な輸出品は、鉱石物や窒素肥料、ヘーゼルナッツやワイン、ミネラルウォーターなどが挙げられる。外国からの輸入品としては、石油製品や自動車、携帯電話や鉄製品などである。日系企業では、首都トビリシに「トヨタ・コーカサス」としてトヨタ自動車が進出し、南コーカサス市場で最大の自動車シェアを持っている。
 また、透明度が高くリベラルな税制制度も持っている。旧ソ連時代の税制を経済改革により是正し、21の税を6つまで減らして税率も下げた。さらに、行政手続きの効率化も進めた結果、現在では税の支払いはオンラインで可能となっている。
 
 このように、ジョージアはわずか10年足らずで共産主義下の汚職ばかりの段階から、世界でも有数の自由なビジネス環境へと生まれ変わった国である。その資源は鉱産物だけでなく、ワインやヘーゼルナッツなどの農産物もある。
ジョージアから日本が学べるもの①ワイン産業の伸びから見る、お酒のPRの仕方
 
 ジョージアで興味深いのが、主要な農産物であるワインの海外への販売である。日本で活躍する相撲力士の栃ノ心はジョージア出身だが、彼の実家は実はワイン農家である。
ジョージアのワインの特徴としては、ぶどうの種類の豊富さとその伝統的で持続可能な製法が挙げられる。ジョージアでは、世界に存在するブドウの種類の6分の1近くとなる500種以上のワイン用ブドウが生産されており、そのどれもが黒海沿岸の気候の特色により質が高い。ちなみに、ジョージアではソフトドリンクとしてぶどうジュースが一般的だが、これもワインに負けず劣らずとても美味しく、ジョージアで生産されるぶどうの豊かな風味が感じられる。
 ワインの製法としては、「クヴェヴリ」と呼ばれる素焼きの壺を地中において熟成させるというものであり、この作り方によって独特の琥珀色のワインが生まれる。ジョージアワインに関する研究も近年進んでおり、ペンシルバニア大学のPatrick McGovern(通称「古代ワインのインディ・ジョーンズ」)のチームが行った研究によると、新石器時代の紀元前6000-5800 年にはすでにジョージアの人々はワインを楽しんでいたということが判明した。ジョージアのこの伝統的な製造方法は、ユネスコにより2013年に世界無形遺産として登録された。
 ジョージアワインは従来ロシアへの輸出の割合が高かったが、近年ではロシアへの依存度は低くなり、ヨーロッパへの販路のより大きな拡大を目指している。その際に鍵となるのは「有機」、そして「持続可能」である。ジョージアがワインの輸出先として考えている地域はヨーロッパやほかのアジア地域が大きい。中でも、ヨーロッパの人々は、フランスだとロアール地方やボルドー地方などの良質なワインを生産する地域を持つために、自国の味に慣れており、舌が肥えている。そうした人々にワインを売るためには、ヨーロッパの人々にとってのおいしさを打ち出すだけでは厳しいと言える。そこで重要となっているのが、昨今のトレンドである「有機(オーガニック)」である。特にヨーロッパにおいては、エコフレンドリーなモノを選択して購入する「倫理的消費」が目立つ。ジョージアのワインは「土から生まれ、土に還す」という、環境に負荷がかかる廃棄物が発生しない手法であり、ヨーロッパの人々が持つ環境や社会に配慮した製品へのニーズに応えることができる。そうしたPRの手法は、ひるがえって日本におけるお酒の輸出における宣伝の仕方を考える際にも参考にできる。
 例えば、日本酒の生産に際しては副産物として酒粕が発生する。これを甘酒や漬物などなどほかの飲食物に活用する日本酒メーカーも多い。このような日本酒の産業廃棄物を出さないという側面は、世界に対してエコフレンドリーな魅力として訴えていく価値があると思われる。
ジョージアから日本が学べるもの②インバウンド
 
 また、ジョージアは観光産業についても興味深い。ジョージアの経済・持続可能な発展省(日本でいう経済産業省)の統計によると、2017年にジョージアを訪問した外国人観光客は600万人を超え、同年のジョージア国民全体の人口371万人を大きく超える観光客が訪れている。2017年の統計では、外国人観光客の目的地は50%が首都Tbilisi、その次に黒海に面するリゾート地のBatumiである。次に、やはりジョージアの売りであるワインの主要な産地であるMarneuliに13.5%、同じくワイナリーが多いKazbegiに7.5%が訪れている。ほかにも、Mtskheta (6.6%)、Borjomi (4.2%)と、ジョージアの豊かな自然を感じられる都市が人気となっている。
 National Statistics Office of Georgiaによると、ジョージアを訪れる外国人観光客の旅の目的として、親戚や友人に会いに来たと答える人が1番多く、64.6%にも及ぶ。しかし、ジョージアが誇るワインや現地の料理と答えたのは、37.3%である。観光客の旅にかかる費用の内訳をみてみると、宿泊費用は旅費全体の4.1%の割合しかない。なぜ、600万人を超えた観光客がいるのに、宿泊にお金がかからないのだろうか。
 その背景には、ジョージア人のホスピタリティの高さがある。ジョージア人の訪問客に対するホスピタリティの高さは、「客人は神様からの贈り物だ」という言葉に象徴されている。実際、筆者がジョージアの友人に会いに訪れた際も、家族を挙げておもてなしをしてくれた。首都から遠く離れた空港にまで友人とその家族が迎えに来てくれたり、食事や宿泊も喜んでお世話してくれる。親戚が経営するワイナリーに車を出して連れて行ってもらった際は「ジョージアのワインを遠くから来てくれた日本人に飲んでほしい」とのことで農園主一押しのワインを頂くことができたりと、彼らの客人に対するホスピタリティはとても厚い。客人にお金を払わせないこの姿勢は、ジョージアの観光統計に出ているように600万人の観光客数にしては少ないお金の落とし方に繋がっているとも見ることができる。
 しかし、このホスピタリティの厚さにより、外国人観光客は一度ではなく何回もジョージアを訪れたくなる。この点は、ジョージアが国民人口を超える観光客の誘致に成功している大きな要因だと言えるだろう。
 日本においても、政府主導で外国人観光客の誘致によるインバウンドに力をいれている。ジョージアの人々による外国人観光客へのおもてなしは、日本が今後の観光業の発展を考える際にも参考となるホスピタリティの1つではないだろうか。

(2020年3月)


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