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リトアニアにある最先端のICT産業とビジネスチャンス


前編「バルト三国のリトアニアにおけるICT産業の萌芽」はこちら

日系企業はリトアニアでビジネスを行えるのか?

 バルト三国の1国であるリトアニアは、小国でありながら近年、IT産業の育成に力を入れ、急速な成長が期待されている。
 しかし、IT産業において、税制優遇やITインフラの整備といった魅力的なビジネス環境が整備されている一方で、日系企業や日本のICT従事者にとって懸念点もいくつか存在する。
 例えば、言語の問題である。英語や中国語といった話者の数が多い言語と異なり、公用語はリトアニア語というあまり馴染みのない言語であるということは、外国のビジネスマンにとって不安要素の1つだろう。
 また、交通の便があまりよくないことも挙げられる。日本からだと直行便はなく、ヘルシンキ経由で12時間以上かかる。また、国内のほとんどが陸路のみであり、国内だと電車か車しか物資の輸送方法の選択肢はない。

 しかし、ICTに特化した産業の創業/ビジネス提携という点から考えると、こうした懸念点は解消しうると言える。
 まず言語に関して述べる。リトアニアはICT教育に力を入れており、このICTプロフェッショナルの世代である10代~20代は流ちょうな英語を話すことができる。
 
 その理由には2つある。
 1つは、子供たちにとって映画やTVがほとんど外国語だからである。筆者が同国に留学していた際、小学校で日本文化に関するワークショップを行った際、現地の小学生は流暢な英語を話していた。なぜそんなに英語が話せるのか尋ねたところ、こどもたちに人気の娯楽作品はアメリカや日本、ドイツ等の作品が多く、英語字幕や英語で視聴するため、小さい頃から英語が日常にあるということが挙げられる。
 2つ目に、歴史的に、多言語を学ぶ土壌が家庭にある点だ。リトアニアはポーランドに支配されていた時代、ロシアに支配されていた旧ソ連時代、独立後の現在と、今生きている3世代で生活における言語が異なるという面も持つ。例えば、筆者の友人は祖母の主言語はポーランド語、母親の一番得意な言語はロシア語、友人の母国語はリトアニア語と、異なる言語を家庭で使用する。そうした環境により、1つの言語の中でしか生活しない国(娯楽も映画も日本語字幕や吹替まで用意されている日本)と比較しても、新しい言語に対する抵抗感がないと言えるだろう。
 
 したがって、ICTビジネスの現場においても英語を話せない若者はほぼいないため、コミュニケーションに困ることはないと言える。
 また、交通の便についても、ICT産業の場合は十分対応しうる。銀行口座の開設や法人登記といった創業にかかわる手続きの簡略化がなされており、オンラインでも可能である。
 また、仮に現地にオフィスを開設した場合、ITインフラも整っており現地の人間とのミーティングはSkype等ですることができるため、現地に行く必要性はない。経理もブロックチェーンが発達しているのでオンラインでも可能だ。
 リトアニアにはクライペダというバルト海最北の不凍港が存在する。この港からの陸路の物流網は他のEU諸国に比べて整っているとはいいがたいため、極めて便利というわけではない。しかし、この港を経由することで、海路で物資を欧州に運送することも可能だ。実際に日系企業の矢崎総業は、ここに拠点を置き、ワイヤーハーネスの製造を主に行っている。

GoogleやNASDAQも進出するリトアニア
 
 このようなインフラを背景に、リトアニアには外資系企業も多く参入している。バルト諸国のトップIT企業20社のうち13企業はオフィスをリトアニアに置いている。また、大手企業としては、Google、WixなどのICT企業、アメリカの証券取引所NASDAQや保険会社AIGが進出している。これらの企業は今後さらに規模を拡大し、新たに雇用を生み出していくことが見込まれる。
日本企業のビジネスチャンスはあるのか?
 
 優秀なIT人材が豊富なリトアニアは、ICTビジネスの展開には適した地域である。こうした豊富な人材プールとITインフラという環境に着目して外資系企業も参入してきた中で、今後一層ICT産業は発展していく見込みがある。そのため、リトアニアは、フィンテックやICT産業といった、物流の不便さが問題とされない領域のビジネスには適した環境だと言えるだろう。
日本企業がリトアニアでのICT産業の波に乗るためには?
 
 これまでの内容を踏まえ、日系企業がリトアニアでのICTビジネスを展開するにあたり、次の3つの可能性が考えられる。
 
 1つ目は、リトアニアの会社をビジネスパートナーにすることである。
 リトアニアにおけるビジネスの特徴としては、国の内需が小さい分、最初から国際市場を見据えたサービスを展開するということが挙げられる。小さな会社でも、高い技術を持ったスタートアップ企業が多数存在しており、それらの企業と事業提携をすることにより、より広い地域の人々の需要に応じたサービスの提供に繋がると思われる。

 2つ目は、リトアニアの企業への投資である。
 例えば、実際にリトアニア企業への投資の例として、前述したVinted が挙げられる。ドイツの大富豪ブルダ率いる大手広告・メディア会社のHubert Burda Mediaは、2015年にVintedに対してベンチャーキャピタルの資金調達ラウンドで4000万ドル、さらに2700万ドルの出資を行い、さらに事業を拡大させている。Vintedにとっても、Hubert Burda MediaはElleをはじめとするヨーロッパの数多くの女性誌を所有しているため、広告の面で販路を広げるのにつながったと言える。また、Hubert Burda Mediaにとっても、2015年当時出資していたドイツのハンドメイド作品販売サイトDaWanda(現在はアメリカの通販サイトEtsyに統合)のシステム構築にVinted技術者のスキルを応用したりと、新たなICTサービスの提供にもつながっている。
 このように既存の優れたICT企業への投資が大きな利益を生み出す例もあれば、ポテンシャルの高いICT産業の卵であるベンチャー企業に投資するのも1つの手である。リトアニアではITを専門とする学生の割合が高く、起業の意欲を持つ若者も多い。彼らの技術を用いたベンチャー企業に投資することにより、世界中で使われるICTサービスの実現も射程内かもしれない。

 3つ目に、リトアニアに拠点を置くことで、ヨーロッパ地域へのビジネス展開の拠点をつくるということだ。
 前述したとおり、豊富なIT人材を比較的安く雇用できるという点において、企業のクリエイティブ事業部やIT部門を担う人材を手に入れることができる。実際の日本企業の例を挙げると、横浜に本社を置くゲーム制作会社コーエーは、2003年にビュリニュスに拠点を置いている。現地でゲームソフト開発を行い、地域での雇用を生み出している。

 リトアニアは現在の深刻な人口流出の防止と、若者の活用のための外資系企業の誘致に力をいれている。英語をはじめとする複数の言語を操ることができる言語力を持ち、高度なICT教育を受けたプロフェッショナル達が雇用の拡大を必要としている現状は、日系企業がM&Aなどの投資、ICセクターの拡大や新しいIoTサービスを検討する際にも目を向ける価値があるのではないだろうか。

(2019年11年)


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