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バルト三国のリトアニアにおけるICT産業の萌芽


世界遺産のビュリニュス歴史地区やビュリニュス大学キャンパスにほど近いビュリニュス大聖堂

ICTとリトアニア

 インターネットテクノロジーやICTの発展は、これまでに世界中の人々の生活を大きく変えてきた。このICTとは、Information and Communication Technology(情報通信技術)の略称である。ITが、ハードウェアやソフトウェア、インフラ等コンピュータ関連の技術そのものを指す一方、ICTはコミュニケーションという語が入っていることからも、情報を伝達することを重視し、インターネットを使って人と人がつながるような技術を含むサービスを指す。現在国際的には、ICTという語のほうが一般的に使われる。
 
 日本においても、ICT産業の拡大により、IT技術を持った人材の不足問題が指摘されるなどの問題が出てきていることを背景に、2020年度から小学校でのプログラミング教育の必修化などに踏み切っている。
 
 こうしたITおよびICTの先進国の1つは、バルト三国のエストニアだといわれ、日系企業にとってもロールモデルとされてきた。同国は行政の99%がオンラインで完結する電子政府化や、今や世界中に浸透したSkypeといった有名なサービスなど、革新的なサービスを生み出してきたIT大国である。国民の情報をオンラインで一元化し「トランスペアレントな国家」を標榜するエストニアは、情報を守るためにブロックチェーン技術も高い。しかし、昨今ではエストニアに追随し、同じくバルト三国のリトアニアにおいてもIT技術が目覚ましく発展し、国内外のスタートアップ企業に魅力的な環境をつくりつつある。
 
 今回は、ICTビジネスの新たな舞台としてリトアニアに着目し、同国の現場について述べる。

そもそもリトアニアってどんな国?
 
 まず、そもそもリトアニアはどんな国なのか、基本的な情報をお伝えしたい。リトアニアは、バルト三国の中で最も南に位置する国である。人口は2017年の時点で284万人と広島県の人口とほぼ同じであり、国土面積は6.5万㎢の小さな国である。
 
 国の宗教は、隣国ポーランドの影響によりカトリックであり、多くの美しい教会がある。例えば、ナポレオンが持って帰りたいと言ったという美しいゴシック建築の『聖アンナ教会』が有名所である。世界遺産のビュリニュス旧市街に代表される、美しい街並みも特徴的で、2016年には年間149万人の外国人観光客がリトアニアを訪れている。2017年には日本からのリトアニア訪問者数も2万人を超えるなど、日本国内の人々にとっての人気も高まってきている。
 
 政治に関しては現在共和制であり、政局は安定している。治安についても犯罪件数も少なく、筆者の場合、夜中に街を歩いていても危険な目にあうことはなかった。フランスやスペインなどの西欧諸国が移民問題の関係でしばしばテロが起きるのと比較しても、そもそもリトアニアには移民が来ないということから、テロが起きていない事実も特筆すべきである。総じて、治安は西欧諸国と比較しても良いと言える。
 
 GDPは427億5,600万ドル(2016年:IMF)である。1人当たりのGDPは14,892ドル(2016年:IMF)であり、同年の日本のGDPは38,983ドルである。一人当たりのGDPはEUの中でも低いと言える。
 
 対外的にみると、ソ連からの独立後もロシアと経済的に深くつながっていた歴史があり、輸出先と輸入先いずれもトップはロシアである。
こうしたロシア依存型経済からの脱却を図るべく、リトアニアはソ連支配下の構造を脱するべく改革を行った。その結果、一人当たりの名目GDPは2016年15216ドル(13486ユーロ)から2018年17935ドル(15899ユーロ)と、2年間で約17.9%も上昇している。
 
 このように、リトアニアは、EUへの加盟の元に大きな経済発展を遂げてきた、小さいながらも勢いのある国であると言えるのだ。
リトアニアの抱える課題とは?
 
 しかしながらリトアニアには、様々な問題がある。
 
 まず、低賃金と対照的な物価の上昇の問題だ。2015年のユーロ導入後から物価は上昇しており、導入以前の通貨リタスの時代にはヨーロッパでも最も安かった物価も、2017年には物価上昇率が3.72%と跳ね上がってしまった。
 
 また、失業率も2016年時点で7.86%と非常に高い。その結果、これまで毎年約2万人もの人々が海外に流出してしまった。中でも20代の若者の流出が目立ち、彼らはより高い賃金を求め、EUの盟主ドイツへ移住するケースが多い。筆者の通っていたビュリニュス大学の生徒も、ドイツへの留学と就職を希望する学生が多くみられた。この人口流出により、国全体として人口減少が深刻である。
現状を突破するために政府が踏み切った方向はIT!
 
 リトアニアは2017年までEUからの補助金のもとで、外資を獲得したうえで自立した経済システムをつくるという目的のもとに、政府主導で様々な改革を行ってきた。
 
 その1つが、政府による経済特区の設置である。この経済特区においては、法人税は10年まで0%(10年以降は7.5%)、配当税と固定資産税は永久に0%と、新事業を始めるにあたり魅力的な低税率を実現している。
 
 また、インフラに関しては物流の点ではあまり良いとは言えないが、EU内でも有数の高速インターネット環境により、ITインフラは整っていると言える。
 
 ITのプロフェッショナルとなる人材も豊富だ。Invest Lithuaniaによれば、国内の7つの大学によって毎年1200人以上の専門家が輩出され、35000人以上がICT産業に従事しているという。昨今では、こうした高度な技術を持った人材によるスタートアップ企業も見られる。その例として、ヨーロッパを中心に2100万人が利用する古着売買サービス”Vinted”や、バス等の公共交通機関の中で最適化された移動手段を提案してくれるサービス”Trafi”などがある。特に、”Vinted”の卓越したIT技術により作られた売買システムは、単なる売買ではなく、服を愛する者のコミュニティとして、若い女性たちがファッションアドバイスをしあったり、恋愛相談をすることができるプラットフォームとして機能している。これはユーザー同士のインタラクティブな交流を実現したうえに、地球規模でのエコシステム構築のニーズを満たすビジネスモデルだと言える。そのため、リトアニア発ベンチャースタートアップの成功の柱となっている。
 
 このような国内のITスタートアップの勢いを背景に、首都ビュリニュスには、北欧やバルト諸国の企業が集まるスタートアップコミュニティ”Vilnius Tech Park”も作られた。Vilnius Tech Park の建物は、17世紀にイタリアの建築家により作られたという300年以上も現存する建築物である。今の時代最も求められる産業を活性化させ、かつ古くからの良いものも後世に残してゆくという温故知新の場となっている。この地域最大のスタートアップハブでは最先端のIT技術を持った人々とつながることができるため、日本企業にとってもICT産業の事業展開が可能となるのではないか。
 
 日本人にあまりなじみがない国の1つであるリトアニアは、実は観光地として魅力的なだけでなくICT産業の最先端の場の1つであると言える。高度なIT教育を受けた人材が多く存在し、国を挙げて外国企業の誘致や起業支援を行っていることからも、今後のICT産業の伸びが期待できる地域の1つである。次のコラムでは、実際のところリトアニアでのビジネス展開は可能なのかについて述べる。

(2019年10月)


後編「リトアニアにある最先端のICT産業とビジネスチャンス」はこちら

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