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アメリカ:教育メタバースの拡大に挑む


急成長すると予測される「メタバース」

 「メタバース」、近年よく聞く言葉になってきが、あまり想像できない場合もあるだろう。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)と呼ばれるものもメタバースに含まれる。一言で表すと、「ネット上に作られた仮想空間やそのサービス」である。2022年に行われた総務省による「日本のメタバース市場規模(売上高)の推移と予測」では2026年には1兆を超える市場規模になると予想されている。但し、2022年の世界の市場規模に対する日本の割合は、わずか2%である。世界市場はより急成長する見込みで、2022年は約8兆6000億円から2030年には約123兆9000億円にまで拡大が予想されている。

 VRやARを教育で使うと、写真や映像で見ても具体的には理解できないものも理解することができたり、没入感があるため集中力が高まり興味関心に繋がると期待されている。また、これは「アクティブ・ラーニング」になるため、現代に求められている主体的に学ぶ力や問題解決能力、思考力等も養える可能性がある。さらにアメリカの投資銀行Piper Sandlerによる、アメリカのティーン層(Z世代)を対象とした調査「Taking Stock With Teens」では、アメリカのティーンエイジャーの30%以上がVRヘッドセットを所有していると発表した。そこで、デジタル分野に強いアメリカのVRが使われた教育現場での事例などを挙げながら、日本でも特に力を入れて取り組んでいる事例を見ていきたい。

大手テクノロジー企業の教育メタバース

 まず初めに、Google社が提供していた「Google expedition」は、教育機関に専用の段ボールでできたゴーグル(Google Cardboard)の中にスマホを差し入れてVRゴーグルにするものを提供していた。ニューヨークのBronx Latin学校(6年生から 12年生までの生徒を対象とした大学進学準備校)で実際に使われた様子がGoogleのYouTubeにも載っている。子供たちが専用ゴーグルを使ってアステカ族の遺跡訪問をする社会科見学をVRで行い、課題作成をするというものである。また、同社の製品を使って非営利の教育グループが社会的なサービスを十分に受けていない低所得層の生徒を対象にVR教育ボランティアを行った。現在は「Google expedition」から「Google Art&Culture」という名前に変わり、2021年にGoogle Cardboardの販売は終了した。「Google Art&Culture」では引き続きサイト上で世界の名所や美術館などを訪れることができ、歴史についても大画面で360度カメラを使用して撮影した高画質な画像を映し出すことができる。Google社はVR事業から撤退したように見えるが、引き続き教育の分野ではこの機能は役に立ちそうである。

 続いてMeta社は、「Meta Quest」というVRヘッドセットを販売している。海外メディアのRoad to VRは1月、2023年のホリデーシーズンにMeta Quest 2とMeta Quest 3が大きく売り上げを伸ばしたというデータを発表した。同メディアによると、2023年11月16日から2024年1月16日までの期間、北米Amazonだけで、Quest 2とQuest 3が合計約32万台販売されたとのことである。このようにMeta社は近年売上を伸ばしているようだが、さらに2023年9月12日に米国15大学との共同取り組みを紹介し、新たなパートナープログラムを準備していることを表明している。例えば、ニューメキシコ州立大学では、学生がバーチャルな犯罪現場を調査する「刑事司法」など、さまざまな科目でVRを活用している。また、パデュー・グローバル大学では、病院のバーチャルシミュレーションで、看護師のトレーニングを行っている。こういった共同取り組みと共に、「Meta Quest」を使用した教育管理システムを開発しており、2024年後半にリリース予定としている。このシステムは、教師や管理者向けのシステムで、主に生徒が使用するMeta Questの管理、VR教育アプリの一括更新や設定変更が可能な機能が備わっている。このようにMeta社は、現在も引き続きVRの教育分野には力を入れておりこれからも拡大していくだろう。

Meta社と日本の高校の連携

 それでは国内はどうだろうか。日本の学校法人角川ドワンゴ学園N高等学校およびS高等学校は2021年4月に選択性のVR学習を導入しており、2022年3月時点で約4,200名受講、新入生の約37%がVR学習を選択している。N/S高ではMeta社の「Meta Quest」を受講生に無償貸与している。これを使用すればいつでもどこでも学習や生徒間交流ができる。様々な授業に対応していて、数学の立体的な映像をVR上で見ることで概念を理解しやすくしたり、社会や国語の授業でとりあげられた場所に訪問をし、そこを360度で見て回るなどして活用している。

 さらにMeta社は、2022年に日本の学校法人角川ドワンゴ学園N高等学校およびS高等学校とAR・VRに関する教育プログラムを共同展開すると発表した。本プログラムでは、生徒に向けてAR・VRの最先端のスキルや創造性、協働性を身につけるための機会を提供し、次世代のAR・VRクリエイターの育成を目指すとのこと。両者は今後1年間でN/S高生を含む1,200名以上の学生を対象に、オンラインワークショップやプロジェクト型学習などのイベントを実施する。さらに、Metaが開発したARエフェクト機能「Spark AR」のオンラインカリキュラムを活用したAR・VRコンテンツ制作ワークショップやプロジェクト型学習も予定している。

 教育分野にも広がりを見せるVRだが、VR自体が全世界に広がるまで、実際にどのくらいかかるだろうか。日本では現在まだ当たり前の世界ではなく、教育はおろかゲームとして使用する場合も日常的には使われていない。これからVRに備わる機能も様々なものが実装されるだろう。今後、世界的に市場の拡大が期待されるメタバースには、製品やソフトウェア、アプリケーションの開発など、多様な分野での様々な可能性を秘めている。

 

(2025年7月)

 

 

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