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ベトナムで広まる「ハイテク農業」


ベトナムの経済成長を支えている農業
 ベトナムの総合統計局の報告によると、新型コロナウイルスの影響に関わらず、2021年度のベトナムのGDPは2.58%増加しており、力強い成長を遂げている。中でも堅実に成長し、GDPの約12%を占めているのが農林水産業である。コロナ禍の影響を大きく受けた製造・建設産業やサービス産業と比較し、農林水産業は非常に安定し、成長している。中でも農林水産業の生産金額の70%以上を占めている農業はベトナムにおいて主要な産業となっている。
 但し、ベトナムの農業は様々な課題を抱えている。現状、人手でのみで作業を行う伝統的なやり方を採用している農家が多いため、生産能力の低さが課題となっている。また、ベトナムにおいては都市化が進み、農地が減少していることに加え、気候変動の影響(ベトナムは世界銀行から気候変動の影響を最も受けやすい5か国の1つに位置付けられている)に伴う海面上昇による塩害被害から農地が将来的に縮小することも懸念されている。このため、人口が増加し、食料需要が高まっているベトナムにおいては限られた農地で食料確保ができるように生産能力を高める必要がある。
 ベトナム政府はこうした問題を解決し、農作物の質も改善するには農業のハイテク化が必要と考えており、先端技術、経験やノウハウなどを持っている先進国からの支援を求めている。
ベトナムで広まる「ハイテク農業」
ベトナムにおけるハイテク農業の現状
 ベトナムでは、ハイテク農業を「農作物の生産効率および品質を改善するために高度な技術を採用する農業」と定義した。
 2010年1月にベトナム政府は「2020年までの高度技術を導入する農業を開発するプロジェクトの承認」の決定を発行し、ハイテク農業の普及に力を入れ始めた。現在、ベトナムではこうした方針に基づき、全国に12か所のハイテク農業団地が設立された(2021年12月時点)。これらの地域ではバイオテクノロジー、空中栽培、
水耕栽培、温室・防虫ネットハウス栽培等に関して海外から多くのノウハウと技術を採用し、農業を行っている。そうした成果もあり、2011年から2015年までの間に100以上の新品種の開発・育成し、耕作面積も増加した。
 ベトナムの中でもハイテク農業が進展し、大きくに成功しているのがランドン省である。優れた技術を採用した結果、生産物である野菜や果物の単価上昇(品質の向上)や生産効率の向上に伴い、売上高は20~30倍に成長した(商工省調べ)。

 ⇒高級野菜の栽培モデルケースでは年間売上高が1ヘクタールあたり5億ベトナムドン(273万円相当)、水耕栽培モデルケースは年間売上高が1ヘクタールあたり80~90億ベトナムドン(4,376万~4,923万円相当)となっている。
 現在、ランドン省においては生産量全体の30%がハイテク農業によるものとなっており、今後さらに拡大していくと期待されている。一方、ベトナム全体においてはハイテク農業に取り組む施設の数がまだ限られている。これには以下の3つの要因が挙げられる。
 ①農業経験者間の繋がり、または農業に参入する技術・資金を持っている企業と農家の繋がりが弱く、優れたノウハウの共有は限定的。
 ②ハイテク農業を進めるための専門家や農家のITスキル等の不足。
 ③政府によるハイテク農業への支援施策(資金調達)が不明瞭
 こうした要因もあり、ハイテク農業を普及、拡大させるのは必ずしも容易ではない。

ハイテク農業の推進政策
 ベトナム政府ではハイテク農業を推進し、普及に向けた課題を解決すべく、支援政策を打ち出している。
 政府が2021年に発表した「2030年までのハイテク開発のための国家プログラム」では、ハイテク農業の生産量のシェアを急速に増やすこと、ハイテク農業を採用し、農業サプライチェーンに活動する企業を200社まで増やすことなど主な目標としている。現在、その目標を達成するため、政府は地代・水面代の優遇、インフラ整備・技術移転の補助金、人材教育及び市場開拓の助成など多くの推進政策を展開している。また、管轄官庁である農業・農村開拓省に限らず、都市・地方の政府との密な連携によってもハイテク農業を促進していく方針である。
 現在、ベトナムの大都市であるハノイ市およびホーチミン市において人民委員会がハイテク農業に対する多数の支援策を実施している。ハノイ市では194の農家(2019年12月時点)がハイテク化を取り入れており、これらの農家の生産額は市の農業全体生産額の35%を占めた。政府がハノイ市に機械、テクノロジーおよび新たなノウハウを取り入れるための追加助成金の490億ベトナムドン(2,74億円相当)を支給している。また、ホーチミン市では農業の新たな品種及び栽培技術の研究・移転を目的として、新たにハイテク農業団地を設けている。
ベトナムの農業における日本企業のビジネスチャンス
 ハイテク農業を促進するベトナムにおいては、農業分野において先端技術を保有する日系企業のビジネスチャンスが広がっている。米生産の機械化において、クボタ及びヤンマーの製品が現地で高く評価されている。ただし、中国やインドのメーカーと比べ、日系メーカーの製品価格は高く、機械の保険料もネックとなっている。このため、農家は新品を購入するのではなく、中古品を購入するケースが目立つ。そこで、ベトナム農業農村開拓銀行(以下「Agribank銀行」)は2017年にヤンマー、2019年にクボタと協力協定を締結し、新品の機械購入の補助プログラムを実施している。このプログラムはAgribank銀行からの借入金で農家がヤンマーかクボタの農業機械を購入すると、これらの機械メーカーが保険料を全額サポートするといったものになっており、新品の機械購入の拡大が期待されている。なお、2019年7月の時点でAgribankはヤンマーの660人の顧客に合計で約3300億ベトナムドン(18,4億円相当)の資金を貸し出しており、実績を拡大している。
 また、農業資材を手掛ける渡辺パイプも2012年からベトナムに進出し、ビニールハウスや灌漑システム向けの資材及び設計・施工サービスを提供しており、現在では多くの農家に同社の製品・サービスが採用されている。
 この他にもIoTや農業ロボットの分野において日系企業の技術が一部採用されており、今後多くの農家に技術が導入されると想定されている。このようにベトナムではハイテク農業の需要拡大に対し、日系企業が有する優れた製品・技術が求められており、今後さらなるビジネスチャンスの拡大が期待される。

(2022年5月)



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