Column
各国情勢コラム

タイ倉庫業界、自動化の広がりに兆し

TILOG–LOGISTIX 2026で見えた自動化の動き 

 タイの倉庫業界が徐々に成長する中、タイを代表する物流・イントラロジスティクス分野の展示会の一つである「TILOG–LOGISTIX 2026」が、2026年8月19~21日にバンコク国際展示センター(BITEC)で開催された。同展示会の開催は今回で9回目となる。倉庫管理やマテリアルハンドリング、包装、物流ITなど、物流分野の技術・サービスを幅広く紹介しており、単なる製品展示にとどまらず、物流事業者とテクノロジー企業を結ぶビジネスマッチングの場としても位置付けられている。自動化技術そのものは以前から存在していたが、同展示会では、単なる技術紹介にとどまらず、導入を前提とした商談やソリューション提案が見られた。背景には、最低賃金の引き上げや労働力不足を受け、自動化を現実的な選択肢として検討する企業が増えていることがある。 

  トヨタ・マテリアル・ハンドリング、三菱商事ロジスティクス、DHLなど25カ国・地域から415ブランドが出展し、7,500人を超える業界関係者が来場する規模となった。会場では、AGV(無人搬送車)やAMR(自律走行搬送ロボット)をはじめ、ASRS(自動倉庫システム)、AIやIoTを活用した物流・倉庫向けの技術が紹介されていた。 

   自動化技術への関心が高まる背景には、タイの物流・倉庫業界における人件費の上昇や労働力の確保に加え、物流業務の効率化・生産性向上を求める動きがある。タイでは2025年7月からバンコクの最低賃金が1日400バーツ(従来比28バーツ増)に引き上げられ、約70万人の労働者が対象となった。人件費の上昇は、物流・倉庫事業者にとってコスト面での負担要因となっている。タイ投資委員会(BOI)によると、タイでは高齢化に伴い労働力の減少が見込まれており、物流分野では労働力不足などを背景に、自動化・ロボット技術への需要が徐々に高まっている。 

投資回収に15年?自動化を阻む高い初期コスト 

 とはいえ自動化はいまだ一般的とは言い難く、人手作業が依然として大勢を占める。導入初期投資の高さに加え、タイの人件費が先進国と比べて相対的に低いことも、短期的なコスト削減だけを理由にした省人化投資を難しくしている。 

 人手に依存していた搬送作業を自動化する代表的な技術の一つが、AGV(無人搬送車)である。これは、あらかじめ設定したルートに沿って倉庫内を自律走行し、パレットや商品を搬送する機器である。 

   一方、導入にあたってはコストが大きな課題となる。AGVは中国製であっても、従来型の搬送機器と比べて3倍以上のコストがかかることも珍しくない。人件費削減効果だけを見ると投資回収に長期間を要するケースもある。展示会関係者によると、1.5トン級で約5年、2~3トン級では約15年を要してしまうケースもあるという。 

   しかし、自動化の価値は人件費削減だけではない。品質管理や安全性向上、人材確保の観点から導入を決断する企業も少なくない。そのため、購入価格そのものよりも、導入後いかに安定的に稼働させ、故障やトラブルにどう対応してもらえるかが、投資判断を左右する重要な要素となる。 

省人化を超える自動化の価値、激化する価格競争

  その価値は「作業員1人を機械1台で置き換える」単純な代替にとどまらない。たとえば一部の自動化設備はマイナス50℃という、人が長時間の作業に耐えにくい低温環境にも対応可能であり、人手では対応が難しい領域を担える点も見逃せない。冷凍食品や医薬品など、温度管理が品質に直結する業種にとっては、コスト削減というより品質・安全管理上の要請として自動化が選ばれる場合もある。 

 自動化設備をめぐる市場では、サプライヤーや機器の選択肢が広がり、価格競争も進んでいる。会場のAGV・AMRゾーンでも、中国系ブランドと日系ブランドの数はほぼ拮抗しており、価格の安さだけで趨勢が決まっているわけではない。 

   中国勢が価格競争力を武器に存在感を高める一方で、倉庫システム全体の設計や保守サービス、システムインテグレーション(SI)機能を重視する顧客も多い。そのため、競争軸は単純な機器価格だけではなく、導入後の運用支援力も重視される。 

一部で広がるAI安全対策

 一方で、倉庫全体の自動化はまだ限定的であるものの、現場の一部で自動化やAIの導入が進んでいる。その一つが、職場の安全対策である。会場では、フォクリフトを販売する日系企業のトヨタ・マテリアル・ハンドリングが、AIを活用した安全カメラなどの安全対策機器や、現場の作業効率化を支援する関連ソリューションを提案していた。同社の関係者によると、フォークリフトを導入するタイの顧客のうち、50%超がAI Safetyシステムも合わせて導入しているという。導入は全面一括である必要はなく、必要なエリアだけを選んで部分導入することも可能で、価格帯も数千バーツから20万バーツ程度と幅広く、倉庫の規模や予算に応じた導入がしやすい点も普及を後押ししている。背景には、労働災害のリスク低減や保険コストの抑制に加え、安全管理の効率化を求めるニーズの高まりがある。

輸入関税ゼロも、タイ政府の自動化支援策 

 倉庫業界の自動化への移行を後押しするのがタイ政府の投資優遇策である。タイ投資委員会(BOI)は、国内で製造されていない主要機械を輸入する場合、輸入関税を最大100%免除する措置を設けている。  

   加えて、法人所得税(CIT)の免除措置もあるが、これは機械の購入価格そのものを割り引くものではない点に注意が必要である。通常は投資額の50%相当分の利益が3年間非課税となるが、投資額の30%以上をタイ国内メーカーやシステムインテグレーターと連携した機械・システムに充てるなどの条件を満たせば、非課税となる利益の上限が投資額の100%相当まで引き上げられる。  

   この一連の制度設計には、海外企業に対してタイ国内のメーカーやシステムインテグレーターとの連携を促し、自動化関連産業の国内定着を図るという政府の狙いも透けて見える。 言い換えれば、タイ企業との連携を構築できるかどうかが、税制優遇を最大限に活用できるかの分かれ目にもなる。  

日本企業には機器以外にも商機 

 日本企業の強みは、AGVなどの機器販売にとどまらず、工程選定や既存施設の改修、複数システムの連携、導入後の保守・部品供給まで一貫して対応できる点にある。 

   今後、タイの倉庫業界が進める自動化は、一気呵成の自動化ではなく、必要な工程から着手し既存倉庫を改修しつつ、技術と環境の成熟に合わせて段階的に拡張していく、漸進的な移行になるとみられる。当面は工程ごとの部分最適化が主流となり、その過程で運用支援能力を持つ企業が優位に立つ可能性が高い。労働力不足という構造的な追い風があり、中国勢との競争もまだ決着がついていないこの段階だからこそ、価格ではなく導入後の支援で勝負できる日本企業にとって、参入の扉が開いていると言えるだろう。 

2026年9月

関連記事
 プリント基板(PCB)の生産拠点として、真っ先にタイを思い浮かべる方は多くはないと思われる。タイには以前からプリント基板の生産拠点が存在しているが、その存在は...
コーヒーや緑茶でも甘いタイの飲み物  タイでコーヒーや緑茶を飲むと、少し意外に感じるかもしれない。タイの飲み物はもともと砂糖が多く含まれており、甘い飲料が日常的...
タイ タイにおける果物の状況 タイはフルーツ王国だと言われている。1年中豊富な果物があり、いつでも果物を食べられる国。タイ国農業・協同組合省農業普及局(DOAE...