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「アジア“最後の秘境” ミャンマーの停電とティラワ経済特別区への期待」


なぜ進まない? “ラスト・フロンティア” ミャンマーへの進出
 2011年の民政移管以降、ミャンマーは日本企業の進出先として熱い視線を注がれてきた。2016年に国際協力銀行(JBIC)が行った調査によれば、ミャンマーは日本企業が中期的(今後3年程度)に有望と考える事業展開先国として第9位にランクインしており、その理由として、1位「現地マーケットの今後の成長性」(83.7%)、2位「安価な労働力」(44.9%)、3位「現地マーケットの現状規模」(16.3%)が挙げられている。特に、1位のマーケットの今後の成長性については、前年から16.1%も回答比率が上昇しており、市場のポテンシャルに対する期待の高さがうかがえる。一方、2位の安価な労働力に関しては、毎年回答比率が低下しており、2015年比で5.1%、2012年比では28.0%も低い結果となっているが、中期有望国上位10ヵ国の中では最も高い回答比率となっており、人件費の安さは今後もミャンマー市場の魅力のひとつとなっていると言えるだろう。
 しかし、日本企業のミャンマー進出は一時期の盛り上がりと比べると、やや下火になっている印象を受ける。一体、何がミャンマー進出の足かせになっているのだろうか。

水力発電への偏重による停電の頻発
 ミャンマー民政移管以降、現地を視察に訪れる日本企業が殺到したにも関わらず、計画の具体化を足踏みさせた要因は何であるのか。先に述べたJBICによる調査において、日本企業がミャンマー進出の「課題」として最も多く指摘しているのが、「インフラの未整備」(59.6%)だ。さらに、2017年に日本貿易振興機構(JETRO)が在ミャンマー日系企業を対象に行った調査によれば、ミャンマーに進出した日系企業のうち、実に85.0%が「電力不足・停電」を経営上の課題として挙げている。それもそのはず、ミャンマーの電化率は、2006年は16%、2011年は26%、2015年は34%と年々向上しているものの、十分と言えるレベルではない。地域別では、ヤンゴン市内の電化率は78%に達しているものの、地方の電化率は20%未満となっており(JETRO、2017年)、電力不足は国にとっての深刻な課題となっているのだ。
 加えて、頻発する停電が事態を悪化させている。現在、ミャンマーの電力は7割以上が水力発電によって供給されているため、ダムに十分な水量を確保でいない乾季(11-2月頃)は、雨季(4-10月頃)と比べて発電量が大きく落ち込み、停電が頻発してしまうのだ。実際に筆者がミャンマー・シャン州のチャイントン(Kyaingtong)を訪れた際も、乾季であったために一日のうちに何度も停電し、ホテルのWi-Fiはまともに使用できなかった。このため、どうしても電気が必要な場合は自家発電を行わなくてはならず、コストがかさんでしまうことが企業にとっての問題となっている。
 このような状況を受け、ミャンマー政府は2030年までに電化率100%の達成を目指している。2017年6月には、ラオス政府がミャンマーに対して余剰電力を売ることを提案し、ミャンマー政府は価格次第では購入を検討すると発表したが、ミャンマー全国電化計画に4億米ドルの資金を融資している世界銀行・ミャンマー事務所のエネルギー専門家は「外国から電力を購入するのは短期的には効果があるが、長期的にみると経済に悪影響を及ぼす。ミャンマー政府はよく検討する必要がある」と懸念を示している。

ティラワ経済特別区で期待される安定した電力供給
 日本企業がミャンマー進出を果たすためには、まだまだ課題は多いかもしれないが、希望もある。2017年に入り、ミャンマー初の経済特別区である「ティラワ経済特別区(SEZ)」が本格的に動き出している。最大都市ヤンゴンから南東に20km、ティラワ(Thilawa)港に隣接する同特別地区は、ミャンマーが51%、日本(住友商事・三菱商事・丸紅・JICA)が49%を出資している一大事業で、総開発面積は約2,400ha(東京ドーム500個分)と広大だ。恵まれた立地に加え、経済特別区として免税措置等を受けられるという優位性から、日本企業では日通、鴻池運輸、郵船ロジスティクスなどの物流企業や、ワコール、クボタ、王子ホールディングス、岩谷産業、IHIといった大手企業が次々と開業している。ティラワ経済特別区では、発電所、送電線、浄水場等の周辺インフラがJICA円借款によって整備され、工業団地としての高いインフラ機能を有する強みがある。また、前述の通り、工業団地運営の経験が豊富な大手商社が開発・運営していることにより、大手商社やJICA等により現地に派遣された日本人からサポートを受けることができる点も大きな魅力のひとつだ。
 2017年8月、ティラワ経済特別区への投資額は17億米ドルに達している。これまで、ミャンマーに進出した企業にとって、停電が頻発する乾季は自家発電コストがかさみ、通常月と比較して経費が3倍ほどになる工場も多かったが、ティラワ経済特別区では稼働初期段階から安定的な電力が供給できる。ヒト・モノ・カネがミャンマーへと一気に流入し、ミャンマー経済が急速に花開こうとしている。


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