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13億人の“足”。インドの鉄道事情


総延長64,000㎞以上。日本より長い歴史を誇る「鉄道大国」インド
 13億人を超えるインド国民にとって、鉄道は日常の移動を支える“足”だ。インド国有鉄道がインド全土に張り巡らせた鉄道網は総延長64,000㎞以上。日本の鉄道の総延長は27,000㎞強であり、国土面積の違い(インドの国土面積は約329万㎢で日本の約8.7倍)を考えると日本の方が“密度”は高いものの、インドが世界有数の「鉄道大国」であることに異を唱える人は少ないだろう。
 インドの鉄道の歴史は古く、1853年には当時インドを植民地としていたイギリスが綿花・石炭・紅茶の輸送を目的としてボンベイ-ターネー間約40kmの路線を開業している。日本の鉄道は1872年、新橋-横浜間なので、インドの鉄道は日本より長い歴史を持っていると言える。
 インドの鉄道というと、TVの紀行番組などで放映された、古い客車に入りきらない乗客がぶら下がっているような映像を思い浮かべる人も多いだろう。現在でもこのような状況が十分改善されているとはいえず、例えばインド最大の都市で、周辺都市を含めた都市圏人口が2,300万人近くに及ぶムンバイを走る列車は、毎日、600万人を超える人を市中心部まで運んでおり、通勤・通学のラッシュ時の乗車率は250%にも及ぶとのことだ。このような状況の中で鉄道事故も後を絶たず、死亡事故が起きることも日常茶飯事となっている。ちなみに最大の事故原因は、混雑のため車両に乗り込めず、車両の端につかまって移動している乗客が落下してしまうことであり、鉄道当局の事故防止対策もなかなか功を奏さない状況が続いている。また、鉄道設備の老朽化や整備不良による事故も多発しており、2016年11月には北部のウッタル・プラデーシュ州で線路の整備不良による急行列車が脱線し、120人以上が死亡する事故が起きている。

官民一体の取り組みで勝ち取った新幹線方式の採用
 「鉄道大国」インドは、日本の鉄道産業事業者にとって、大きな魅力を持つマーケットだ。例えば、インド西部のムンバイ─アーメダバード間で建設が予定されている高速鉄道では、2015年12月に日本の新幹線方式の採用が決定されており、2023年の開業に向けて準備が進められている。これを契機に在来線においても安全性の高い日本の鉄道技術を売り込む動きが活発化しており、例えば2016年12月にインド国内で開催された鉄道産業の国際展示会には30社以上の日本メーカーが出展。多くの来場者を集めたとのことだ。
 しかし、安全性を重視するためコストが高い日本の鉄道技術を、安全性よりコストを重視するインドに売り込むのは容易なことではない。同様に安全性よりコストを重視するインドネシアの高速鉄道計画で、日本の新幹線が中国と競合し、敗れたニュースは記憶に新しいが、同様の事態がインドでも起きる可能性は皆無とは言えないだろう。
 鉄道の新設は莫大な事業費を必要とするだけに、“輸出”を成功させるためには官民一体の取り組みが欠かせない。日本の新幹線方式の採用が決まったムンバイ─アーメダバード間の高速鉄道計画では、当初、フランスチームが先行していたが、日本チームは9,800億ルピー(約1兆8,000億円)にも及ぶ事業費の約8割を円借款による低利融資で提供するという資金調達スキームを提示することで、逆転採用を果たした。今後、在来線に日本の鉄道技術を売り込む際にも、このような取り組みは欠かせないだろう。
牛の線路内への侵入が大問題に
 日本では近年、鉄道ファンが市民権を得る一方、いわゆる“撮り鉄”が線路内に侵入するような事件が続発し、社会問題となっている。しかし、インドでは線路内に侵入するのは人間だけではない。牛が線路内に侵入することが後を絶たないのだ。
 インドで牛はシヴァ神の乗り物として神聖視されているが、その飼い方は適当で“放し飼い”されている牛も多い。そして、インドの鉄道では管理が行き届いた日本の鉄道と異なり、線路に雑草が生えているのは当たり前なので、雑草を食べるために牛が線路内に侵入することが珍しくないのだ。牧歌的で微笑ましい風景と言えないこともないが、前出の新幹線計画でも牛対策として全線高架化を図るため、10億ドルもの追加費用が発生する見込みであるとのことであり、けして笑ってばかりいられない大問題になっているようだ。

(2017年3月)


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