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シンガポールと女性の経済進出


シンガポールのホーカーズ(露天商・屋台街)。平日にも気軽な外食を楽しめる。

女性が働きやすい国?

 シンガポールは女性が働きやすい国と言われている。国連開発計画(UNDP)の2017年ジェンダー不平等指数において、シンガポールは189ヵ国中、第9位とトップ10にランクインしている(ちなみに日本は19位)。また、同国の社会・家族開発省(Ministry of Social and Family Development: MSF) が5年ごとに実施している調査によれば、21歳以下の子どもが1人以上いる家庭において、いわゆる共働き(dual income)の家庭は65.6%と全体の過半数を超えている。
 今回は、シンガポールの女性たちと、その経済進出について概観したい。

ヘルパー等を活用し、女性にかかる家事・育児の負担を軽減

 シンガポールでは、出産後4ヵ月ほどで職場に復帰する女性が珍しくない。というのも、同国では女性の経済進出に積極的に取り組んできた歴史があり、結婚・出産後も女性が働き続けるケースが多い。このような中で、「共働きの夫婦が2人だけで子育てをすることは実質的に不可能だ」という認識が人びとの間で広く共有されており、家事や育児に他人の手を借りるというカルチャーがすでに浸透しているのだ。
 乳幼児の預け先としては、保育園のほか、ヘルパー(24時間体制の住込みメイドにあたる人物)、ナニー(主にシンガポールで子育てを終えたシンガポール人女性)やベビーシッターを利用する家庭が多い。特にヘルパーを雇っている家では、子育てだけでなく食事などの家事も依頼しているので、平日の食事はヘルパーが作った料理を食べ、休日は気軽に外食に出かける、つまり、親のどちらかが作った料理を食べる日がほとんどないという家庭も珍しくない。
 また、シンガポールは国の面積が東京23区とほぼ同じであるため、実家との距離が近い。そのため、東京など日本の都市圏と比較して、祖父母からのサポートを受けやすいと言われている。
 このように、親以外の大人による子どもの世話や子育てが当たり前となっているシンガポールは、働く女性に優しい国のように思える。ただし、そんなシンガポールにも課題はある。
仕事と家庭を〝両立〟する重圧を担う女性たち

 1975年、シンガポール初代首相リー・クアンユー氏はこのように述べている。「女性であるという理由で人口の半分を教育せず、また活用しない社会に未来はない。我々はシンガポール女性に教育を与え、その能力を十分に活用する」。
しかし、その後1980年代に少子化による労働力の不足が問題視されると、「伝統的価値観」に基づく、女性の家庭内での役割、すなわち〝良き妻〟〝良き母〟が求められるようになった。
 つまり、先に紹介した家事労働者を外注するという文化には、「ラクをしたい」という考えよりも、女性が仕事と家庭を〝両立〟させるためには雇わざるをえない状況があることの表れと言える。
 さらに、現行のシンガポールの教育制度では、子どもたちは小学6年生のときに受ける試験の点数により、大学などの高等教育を受けるか、職業専門学校に行くかがほぼ決定してしまう。このため、働く母親たちの中には子どもが小学校の高学年に入ると仕事を辞め、家庭で子どもの勉強を付きっきりで見る女性も少なくはない。この点も女性のキャリアという観点からは課題のひとつと言えるだろう。

 このように、シンガポールを女性にとり働きやすい国であると一概に言うことはできない。しかし、国の方針変更にフレキシブルに対応する性格が強いシンガポールでは、今後もさまざまな制度が変わっていくものと見られる。
 少子高齢化が進む日本では、女性や高齢者が活躍できる社会基盤の整備が進められているものの、家庭内・家庭外からのサポートを必要とする女性人材が数多く存在している。近年では、徐々に家事・育児代行サービスが人気を集めているものの、まだまだ一般的とは言い難いのが現実だ。日系企業がシンガポール企業の取り組みをケーススタディーとして学ぶことで、よりグローバルな視座から国内外の女性社員の能力活用を進めることができるのではないだろうか。

(2019年8月)

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