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拡大する新興国の医療機器市場


世界の医療機器市場は、年率5%前後の安定成長を続けており、経済産業省などの各種資料によると2018年は3,500~4,500億ドルの市場規模と見込まれる。現状、世界市場の4分の3を北米、欧州、日本などの先進国が占めているが、近年は中国、インド、東南アジア、南米などの新興国の市場が高い成長率を示している。
また、2013年度に発表された政府の『日本再興戦略』では、『医療の国際展開』として医薬品・医療機器の海外展開を進めることが示されており、国内医療機器メーカーは、積極的に海外展開を進めている。但し、医療機器の輸入認証制度は国によって異なる為、各国別の対応が必要となる。

拡大が見込まれる新興国市場

 新興国の医療機器の市場は、世界市場の4分の1であるが、伸長率に関しては、日本などの先進国が3~4%に対して、新興国の市場は国によって差があるものの7~10%となっている(経済産業省、JETROの資料など)。
 新興国の市場が拡大している要因としては、人口の増加と経済成長に伴う所得の増加があげられる。人口と所得の増加、医療インフラの拡充により医療サービスを必要とする高齢者層が増加し、医療機器の需要が拡大している。国連による推計(World Population Prospects 2019)では、65歳以上の老年人口の比率は、中国では2015年の9.3%から2030年には16.9%、インドでは2015年の5.6%から2030年には8.6%、インドネシアでは2015年の5.4%から2030年には9.2%、ブラジルでは2015年の8.0%から2030年には13.6%に増加すると見込まれている。ちなみに日本では、2015年の26.0%から2030年には30.9%に増加すると見込まれている。
 また、新興国の経済成長・所得の向上によるライフスタイルの変化に伴って生活習慣病が増加していることも医療機器の需要が拡大している要因の1つである。WHOによると肥満率(BMI 30 kg/㎡以上の人口比率)は、中国では2007年の3.7%から2016年には6.2%、インドでは2007年の2.4%から2016には3.9%、インドネシアでは2007年の4.1%から2016年には6.9%、ブラジルでは2007年の17.8%から22.1%に増加している。ちなみに日本では2007年の2.9%から2016年には4.3%に増加している。また、がん死亡者数は、WHOによると、中国では2018年の287万人から2030年には408万人、インドでは2018年の79万人から2030年には107万人、インドネシアでは2018年の21万人から2030年には29万人、ブラジルでは2018年の24万人から2030年には36万人に増加すると見込まれている。ちなみに日本では、2018年の41万人から2030年には49万人に増加すると見込まれている。
 公的医療保険制度の整備によって、医療サービスを利用する層が拡大したことも医療機器の需要の増加につながっている。中国の保険制度としては、都市で働く企業就労者を対象とした『都市職工基本医療保険』と農村住民及び都市戸籍の非就労者を対象とした『都市・農村住民基本医療保険』があり、前者の加入率は50~55%(2016年)、後者の加入率はほぼ100%(2015年)である。インドでは貧困層を対象とした保険制度『PM-JAY』に国民の約40%が加入しており、就労者を対象とした『ESI』に国民の約10%が加入している。インドネシアでは、国民皆保険制度『SJSN Health』を導入しており、国民の約70%(2017年)が加入している。ブラジルの公的保険制度『SUS(統一医療システム)』には、国民の約80%が加入している。

医療機器市場は欧米企業が中心

 経済産業省の資料によると、2017年の世界の医療機器メーカーの売り上げランキングでは上位20社中、米国メーカーが11社、欧州メーカーが6社、日本メーカーが3社となっている。近年の傾向としては、積極的なM&Aを行っている欧米メーカーが売上を拡大している。欧米の医療機器メーカーのシェアが高くなって要因としては、世界の医療機器市場の4分の3を先進国が占めているためと見込まれる。
 ASEAN各国の医療機器の輸入比率は80~90%であり、輸入品に依存している状況である。ローカルメーカーは手袋、カテーテル、チューブなどの消耗品の製造が中心であり、高度な医療機器は海外からの輸入に頼っている。
 2018年の日本の医療機器の輸出金額は、6,700億円程度であり、この内、アジア向けが33%、欧州向けが26%、北米向けが19%を占めている。また、医療機器の種類別では、医用検体検査機器と画像診断システムが共に23%程度を占めている(薬事工業生産動態統計)。
新興国では、経済成長・所得の向上によるライフスタイルの変化に伴って生活習慣病の罹患数が増加している。がんや糖尿病などの早期診断・治療ニーズが拡大することから、検体検査機器などの診断機器のニーズが今後、さらに高まると見込まれる。

各国で異なる医療機器の認証制度

 新興国の医療機器市場は今後、拡大が見込まれるが、医療機器の認証制度は各国で異なり、個別の対応が必要となっている。
 医療機器は、人体へのリスクの程度によってクラスが分類されており、クラスによって認証プロセスが異なっている。クラス分類も各国によって異なるが、ASEANの医療機器のクラス分類は、2014年にASEAN加盟10ヶ国が合意した『ASEAN医療機器指令(AMDD: ASEAN Medical Device Directive)』に従って統一されている。但し、輸入・販売の承認取得の為の条件はASEAN各国によって異なっている。

 今後、新興国の医療機器の市場は、拡大が見込まれるが、医療機器の認証制度は各国によって異なっている。また、先進国・新興国ともに病院業務の効率化や医師不足を補うため、オンライン診断や電子カルテの導入などのIT化が進むと見込まれ、医療機器に関する規制や認証制度も変化していくと見込まれる。海外に医療機器を輸出(市場参入)する場合、各国のレギュレーションを十分に把握し、認証制度に準じた手続きを行う必要がある。

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