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インドの医薬品産業


グラフー下位中所得国の原因別死亡者数推移(推計)

 インド人は、ヨガや、アーユルヴェーダ(インド伝統医学)を発達させ、病気の治療や予防に古くから熱心であったと考えられている。そのことが関係しているかは定かではないが、実は、インドはジェネリック医薬品(後発医薬品)製造の一大生産国であり、「世界/開発途上国の薬局」ともいわれるほどである。今回は、インドの医薬品市場にスポットを当ててみたい。

医薬品需要の高まり
 インドの人口は、2009年以降1.2% (世銀データベース) 程度で伸びており、特に2013年から18年の15-64歳の人口に占める割合は1.5%上昇し、18年は66.8%(9.03億人)ほどであった(日本は59.7%で0.75億人)。死亡率は減少傾向にあり、1960年代は20%程度の高い水準だったが、2000年以降先進国と変わらない水準になった。近年は先進国の高齢化もあり、死亡率は先進国に比べてやや低くなっている。2017年のインドの死亡率は7.2%(日本は10.8%)である。また、平均寿命が延びており、1960年の調査開始以来伸長傾向にある。2017年のインドの平均年齢は69.2歳である。乳幼児(1歳未満)の死亡率は1000人当たり29.9と他国と比べると依然として高いものの、減少傾向が続いている。人口増加が続いているため、高齢化のフェーズには移行しておらず、壮年、成人層の増加による、生活習慣病等の罹患率増加が今後見込まれる。
 WHOの予測(グラフ)によると、インドを含めた下位中所得国(世銀基準)では非感染性疾患(悪性腫瘍・がん、糖尿病、虚血性心疾患など)による死亡が今後増えるとみられている。インド政府の2011-2013年の国勢調査における死亡原因(死因不明を除く)を見てみると、1位が心筋梗塞などを含めた心臓血管病であり(死亡原因のうちの23.3%)、2位(7.6%)が呼吸器疾患(気管支喘息、肺気腫など)、3位(6.1%)が悪性・その他腫瘍(がんなど)である。経済発展とともに所得が増加する中で、生活習慣が変化し、ストレスなどが高まることで非感染性の病気にかかりやすくなる。また、減少傾向にはあるものの、依然としてチフスなどの消化器感染症、デング熱などの感染症も課題となっている。このような点からインドでは医薬品の需要が高まっている。
インド製薬市場
 インド製薬産業連盟と米国コンサルの試算によると、インド国内の製薬市場の規模は2019年で380億米ドルとなっており、2030年には1,200-1,300億ドルをみこんでいる。2000年から2005年は年9%の成長であったが、2030年までに、11-12%(年平均成長率)になると予測されている。英国製薬コンサルによると2019年の世界のファーマ売上高トップ100には、インド企業8社(日本は17社)がランクインしている。売上では1.7%をインド企業が占めている。
 またインド製薬企業は、輸出に力を入れている。OEC(Observatory of Economic Complexity)によると、2017年の小分けされた医薬品の輸出額は132億米ドルで世界ランク9位(世界の同品目輸出額の4%)である。日本は38億米ドルでランク18位(1.2%)である。インドの貿易統計によると、小分けされた医薬品の輸出額は2016年以降平均2.8%で伸びている。同品目は、インドの輸出額の4%ほどを占めている。一方、小分けされていない医薬品は、輸出額が5.1億米ドルで世界ランク3位(世界の同品目輸出額の5.9%)である。日本は2.2億米ドルで世界ランク13位(2.5%)となっている。
 輸出相手国別では、小分けされている医薬品の主要輸出相手国はアメリカ(インドの同品目輸出額の42%)、南アフリカ(3.5%)、ロシア(3.2%)、イギリス(3.0%)、ナイジェリア(2.1%)である。小分けされていない医薬品のインドからの主要輸出相手国はアメリカ(インドの同品目輸出額の24%)、オランダ(5.7%)、ドイツ(4.4%)、ブラジル(3.7%)、日本(3.6%)である。
ジェネリックとバイオ
 インドの医薬品産業の大部分を占めてきたのがジェネリック医薬品(後発薬)分野である。国際ジェネリック医薬品・バイオシミラー協会によると、2019年のインド国内のジェネリック医薬品の普及率は73%である。また国際市場でもインド製ジェネリック医薬品の影響力は大きい。日本でも、近年ジェネリック医薬品が注目されており、医療費抑制の流れからジェネリック医薬品への置き換えが進んでいる。2019年の日本のジェネリック医薬品の普及率は約73%であるが、日本で処方されるジェネリック医薬品の原薬は、実はインドで作られていることが多い。日本ジェネリック製薬協会によると、日本のジェネリック医薬品の原薬製造拠点のうち59%が海外であり、そのうちの約20%(713拠点)がインドに存在している。インドブランドエクイティ基金によるとジェネリック医薬品世界輸出の数量で5分の1がインド製であり、ジェネリック医薬品の普及率が9割に達するアメリカで使用されるジェネリック医薬品のうち、約40%がインドから供給されている。
 もともとインドは医薬品に関しての特許が緩く、1970年特許法では物質特許(新規化合物そのものに付与され、製法の違いにかかわらず保護される)が認められていなかった(2005年に物質特許導入)。このため、世界に先駆けて、同じ物質を低コストで作り出すというジェネリック医薬品製造の土壌ができていたといえる。
 近年、インドの後発医薬品メーカーは海外販路の拡大に乗り出している。途上国の低所得者層にとってインドのジェネリックは手に入れやすいこともあり、国境なき医師団の世界各地で使用するHIV・エイズ治療薬のうち8割がインド製である。
 またインドの後発薬企業はバイオ技術(遺伝子組み換えなど)を利用したタンパク質、生物由来のバイオ医薬品分野や、バイオ医薬品の後発医薬品分野(バイオシミラー)への進出を模索している。バイオ医薬品は分子量が大きく構造が複雑であり、先行薬との同一性を示すことが困難なことから、「似た性質(同等性/同質性)」を持つバイオ後発薬は、バイオシミラーと呼ばれている。バイオ医薬品開発は後発薬開発であっても高い技術力を必要とし、開発コストも莫大である。このため、インドの後発薬企業は世界各国の新薬開発を得意とするメガファーマなどとの提携を強めている。インドでバイオ医薬品製造を手掛けるBioconはもともと酵素メーカーとして設立された。発酵技術を応用し医薬品部門に進出した同社は2001年に、コレステロールを低下させるロヴァスタチンを開発しアメリカFDA(食品医薬品局)の認証を取得した。2004年には遺伝子組み換えによるヒトインスリン(Insugen)の製造に成功した。2012年にアメリカの糖尿病治療薬製造大手のBristol Myers Squibbと提携し、経口インスリンを開発した。2016年には当時の富士フィルムファーマとともにインスリン製剤「グラルギン」の日本での販売を開始した。
 このようにインドの医薬品製造のなかでバイオシミラー分野に注目が集まっており、インドのバイオ医薬品企業は技術提携や、販売認可の取得、販路の拡大といった方面で世界各国の新薬製造企業との提携を進めている。日系製薬企業にとっても、バイオ医薬品の開発・製造を目指すうえで、インドのこれらの企業との連携は一つの有効な手段となりうるだろう。両者の提携は、日本の製薬企業にとって需要が拡大するインド市場進出のための一手にもつながる。

(2020年7月)


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