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タイ・モーターショーに見るEV市場の現状


タイのモーターショーは?

 日本には東京モーターショー(現:ジャパンモビリティショー)があるが、タイでも毎年2回、大規模なモーターショーが開催されている。
東京モーターショーは、自動車の最新技術やデザインに関する情報を紹介する見本市であるが、タイのモーターショーは、販売促進が主な目的となっており、来場者との商談が行われている。

 タイでは、大規模な自動車展示会として「バンコク国際モーターショー」と「タイ国際モーターエキスポ」の2つがあり、主催者と開催時期が異なる。日本ではモーターショーが日本自動車工業会によって主催されるのに対し、タイでは民間企業(グランプリ・インターナショナル社、インターメディア・コンサルタント社)が主催している。モーターショーをはじめ、スポーツやエンターテインメントのイベント、展示会などを主に手がけているグランプリ・インターナショナル社は、1979年に初めて「バンコク国際モーターショー」を開催し、新型車の展示や車両
技術の紹介を行った。一方、その5年後、イベントの開催に加え、メディア事業も展開しているインターメディア・コンサルタント社は1984年に「タイ国際モーターエキスポ」を開催し、同様に新型車と技術を紹介した。その後、両方の展示会は販促キャンペーンや来場者との商談が
行われる場へと発展した。

 現在、「バンコク国際モーターショー」は3月〜4月に開催され、「タイ国際モーターエキスポ」は11月〜12月に開催されるが、開催形式に
大きな違いはなく、いずれも各メーカーによる新型車や技術の展示のほか、さまざまな販売促進キャンペーンなどが行われている。会場内で
成約した場合、低金利ローンや1年間の無料保険など、通常よりもお得な条件で自動車を購入することができる。また、値段交渉も可能で、各
ショールームを訪れる必要がなく、会場内で全てのブランドを一度に見比べられるため、車の購入を検討している人にとっては、期待される
イベントとなっている。

2025年のバンコク国際モーターショー

 2025年の「バンコク国際モーターショー(Bangkok International Motor Show 2025)」は、3月26日~4月6日に開催され、今回が46回目となった。日本、中国、欧米などの自動車メーカーが54社出展し、そのうち、自動車メーカーが41社、二輪車メーカーが13社であった。

 毎年、開催期間内の成約数と人気のブランドが注目されている。タイでは2024年頃から、金融機関による融資の承認が厳しく、購買力の低下や高水準の家計債務といった課題があるものの、今回の四輪車の成約台数は予測を上回り77,379台となった。2024年の四輪車成約台数は
53,438台だったのに対し、2025年は前年比44.8%増となった。この背景の1つとしては、中国の自動車メーカーを中心に開催期間中だけ大幅な値引きを行ったからとみられている。なお、成約したもののローン審査が通らず、購入を見送る場合もあり、会場での成約台数が必ずしも実際の販売台数を反映しているわけではない。

 車種別に見ると、電気自動車の成約数は前年比で187%増加し、約50,400台となり、全車種の成約数の65%を占めた。一方、内燃機関車の
成約数は約27,000台、前年比25%減、全体の35%であった。電気自動車の成約数が増加した要因としては、より手頃な価格帯の車が増え、多くの新車種の発売により選択肢が広がったことが挙げられる。さらに、多くの自動車メーカーが品質保証期間を延長するなどの販売促進キャンペーンを実施したほか、トラック購入者向けの政府支援策も発表された。

 成約数のトップ5ブランドは、中国のBYDで、次いで、トヨタ、中国のGAC(AION/HYPYEC)、中国のDEEPAL、ホンダである。以前は、
トヨタ、ホンダ、日産、三菱、いすゞなど日系自動車メーカーが成約台数の上位5社に入っていたが、近年、日系メーカーのシェアは減少し、
中国の自動車メーカーのシェアが拡大している。この背景としては、前記した通り、中国の自動車メーカーが開催期間中だけ大幅な値引きを
行ったことや、多くの新車種の発売により選択肢が広がったことなどがあげられるが、それでもタイにおける電気自動車への関心の高まりが
見える。タイの自動車購入者の意向としては、中国メーカーの電気自動車(BEV)と日本メーカーのハイブリッド電気自動車 (HEV)の2つに分かれている。

電気自動車の販売が急速に増加

 近年、タイでは、電気自動車の販売が急速に拡大している。2022年の自動車販売台数に占める電気自動車の割合は20.5%であったが、2023年には41.4%へと増加している。特に、バッテリー式電動自動車(BEV)への関心が高まっている一方、内燃機自動車の販売シェアが減少している。 

 バッテリー式電動自動車(BEV)の販売台数は、2022年に9,900台の販売を記録して以降、増加傾向にあり、2023年には全国で7万7,000台が販売され、前年比で677%の増加となった。また、プラグインハイブリッド車(PHEV)の販売台数は、2017年のわずか100台程度から2018年には、8,500台へと急増した。その後も、毎年1万台前後の販売台数が続いている。これに対し、内燃機関車の販売台数は、2023年に前年比
11.3%減少し、54万台から48万台に落ち込んだ。

 近年、タイでは、電気自動の購入支援、電気自動車充電ステーションの増設、世界のトレンドなどにより、電気自動車への関心が高まっている。2022年以降、政府は電気自動車の普及を加速させるための政策を推進している。例えば、①電池容量に応じて乗用車1台当たり7万バーツ、または15万バーツの補助金を交付。②乗用車の物品税率を8%から2%へ引き下げ。③EV完成車の輸入関税を最大40%引き下げ、などを行っている。

 さらに、2024年から2027年にかけて電気自動車推進の第2段(EV3.5)の支援措置も発表された。政府はEV乗用車、EVピックアップトラック、電動二輪車の購入に対し、車種とバッテリー容量に応じて、補助金を支給することになる。

 生産拠点に関しても2025年3月時点で、中国の自動車メーカー7社がタイに生産工場の設立を予定しており、7つの工場の投資額の合計は約
700億バーツになると予想されている。なお、2025年にBYDが年間生産能力15万台のタイ初の工場を開設している。

ハイブリッド電気自動車(HEV)の関心も高まっている

 前記した通り、バッテリー式電動自動車(BEV)の販売が急速に拡大しているが、一方でBEVの耐久性や性能劣化、安全性に対する懸念があり、販売価格の頻繁な値下げ、保険料の高止まりなどにより、一部の消費者は不安を感じ、ハイブリッド車への注目も集まっている。2022年のハイブリッド電気自動車(HEV)の販売数は、6万2,000台で、前年比81%の増加となった。トヨタモータータイランドによると、2023年の総自動車販売台数に占めるハイブリッド電気自動車(HEV)の割合は12%であったが、2024年には29%へと拡大している。トヨタ以外の日系企業も電気自動車(BEV)よりもハイブリッド電気自動車 (HEV)に力を入れている傾向があり、いすゞやマツダなどもタイでのハイブリッド電気自動車 (HEV)生産ラインへの投資を継続的に増加する意向である。

 政府もハイブリッド電気自動車(HEV)とマイルドハイブリッド車(MHEV)に対するメーカーへの投資促進策を実施しており、2026年から2032年にかけて物品税率を引き下げる予定である。具体的には、ハイブリッド電気自動車(HEV)に対しては二酸化炭素(CO2)排出量に応じて、物品税率を6~9%、マイルドハイブリッド車(MHEV)に対しては物品税率を10~12%に引き下げるとしている。

 

 

今後も注目されるタイのモーターショー

 政府の電気自動車産業への投資・購入支援措置や、中国メーカーを中心とした参入メーカー・車種の拡大、電気自動車の大幅な値下げなどにより、今後、タイの自動車市場は競争がますます激化することが予想されている。毎年注目を集めるタイのモーターショーは、技術展示としてのイベントだけではなく、大規模な自動車販売イベントとなっている。近年のモーターショーは、さまざまな要素を反映しており、電気自動車のトレンドも含め、タイの自動車市場の変化と消費者行動が反映されている。電気自動車(BEV)・ハイブリッド電気自動車(HEV)を含む全ての自動車メーカーが注目し、今後の事業戦略を検討している。

 

(2025年5月)

 

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