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再生プラスチックの食品容器利用の解禁により固形廃棄物問題に挑むタイ


 2018年、タイのリサイクル市場は 1,630億バーツに達した。そのほとんどが小規模の廃品回収業者によるものであるが、今後、リサイクル市場は成長を続け、2024年にGDPの1.2%に相当する2,240億 バーツに達すると予想されている。

 

コロナ渦以降、増加する固形廃棄物

 公害監視局によると、2022 年、タイでは2,570 万トン(70,411トン/日)の固形廃棄物が発生した。いわゆる、1人1日当たりのごみ排出量の平均は 1.07 KG/人/日となった(日本の1人1日当たりのごみ排出量は0.88 KG/人/日である)。この固形廃棄物の量は昨年(2,498万トン)と比べて3%増加した。地域別の1日あたり発生するごみの量は中部地域が17,511トンで最も多く、次に北東部が16,882トン、バンコクが12,890トン、南部が8,684トン、東部が6,565トン、北部が4,585トン、西部が3,294トンであった。

 2018~2022年の固形廃棄物の傾向としては、2018~2019年は増加傾向にあったが、2020~2021年はコロナウイルス感染拡大の影響により、外国人観光客が減少した為、固形廃棄物の発生量も減少した。

 2022年はコロナウイルスの感染者数が減少した為、政府はロックダウンを緩和する措置を発表し、国内観光を推進した。人々の生活様式は通常に戻ったが、コロナ渦前と比較して、通販サイトによる商品や食品の購入が増加しており、使い捨てプラスチック(Single use plastic)包装の固形廃棄物は依然として多いままである。さらに、タイへの観光客は徐々に戻り始めており、2021年は約 40 万人であった観光客数が、 2022 年には 1,100 万人 (経済観光スポーツ省、2022 年)になり、増加し続けている。それに伴い、発生する固形廃棄物の総量も増加している。

 

タイにおける固形廃棄物の状況

 2022 年に発生した固形廃棄物は、合計で2,570 万トンであった。そのうち、570万トンは発生源で処理・分別されリサイクルされた。その中の170万トンは自治体による廃棄物の回収が行われていない地域や郊外の住宅・コミュニティでリサイクルされた。また、400万トンは発生源または自宅で分別され、「サレン」と呼ばれる個人収集事業者が回収してリサイクル事業者に売られ、リサイクルされた。

 発生源で処理されていない残りの2,000 万トンの固形廃棄物は、地方行政機関やその代行団体によって収集され、廃棄物分別所や廃棄物処理場に運搬された。その中の480万トンが分別され、リサイクルされた。また、残りの1,520万トンは廃棄物処理場で処理され、約980万トンの固形廃棄物が焼却炉、埋め立て、堆肥などで適切に処分された。不法投棄、野焼きなどで不適正に処分された廃棄物は約540万トンであった。

 

プラスチック廃棄物の状況

 2022年、ビニール袋、レジ袋、プラスチックカップ、プラスチックストロー、発泡スチロール製の箱などの使い捨てプラスチックの廃棄量は年間約 283 万トンであった。総固形廃棄物の11%を占め、食品廃棄物に次ぐ第 2 位となった。その内訳は、71 万トン(25%)がリサイクルされ、204 万トン (72%)が他の固形廃棄物と一緒に埋め立てられて処分され、80万トン (3%) が処理されず、環境中に残っている。

 タイにおけるプラスチック廃棄物の管理は様々な問題がある。まず、プラスチック廃棄物に対する法規制がないことがあがられる。プラスチック製品の製造と設計は再利用を考慮されておらず、その結果、プラスチックの廃棄量は年々増加している。また、使い捨てプラスチックの削減に対する国民の意識と協力も低く、重要視されていない状況である。

政府の固形廃棄物削減に向けた取り組み

 タイ政府は 2014 年以来、固形廃棄物の削減を国家課題として掲げており、2016 年に国家固形廃棄物管理マスタープラン 第1号(2016 ~ 2021 年) を策定した。不適正な廃棄物処理を減らすため、民間企業による廃棄物処理の運営や参加を許可するなどの様々な措置を推進した。

 国家固形廃棄物管理マスタープラン 第1号が終了した後、2022年に国家廃棄物管理マスタープラン第2号(2022 ~ 2027 年)が策定された。新しい管理計画は、地域のごみ処理を改善し、リサイクルを促進することに焦点を当てている。さらに、食品の廃棄物の削減や危険な廃棄物の適切な処理を強化することを目標としている。

 プラスチック廃棄物に関しては、2019年にプラスチック廃棄物管理ロードマップ(2018~2030年)が採択された。同ロードマップは使い捨てプラスチックを削減し、2027年に対象プラスチックごみのリサイクル率を100%達成することを目標として掲げている。但し、ロードマップは強制力がない。

 また、天然資源環境省は、2020年にプラスチック廃棄物管理ロードマップに基づく行動計画を策定した。2020年~2022年の第1段階では、使い捨てプラスチックの削減や禁止、対象プラスチックのリサイクル率を50%以上にすることを提唱した。2023年~2027年の第2段階では、プラスチック廃棄物の発生を防ぎ、生産者責任の原則を強化することに焦点を当てている。

 

再生樹脂から作られた食品容器を解禁

 タイでは、食品に使用するプラスチック容器包装の品質規制によって、ペットボトルにはリサイクル樹脂の使用が禁止されていた。ペットボトル廃棄物のほとんどが、衣料品などの製造に使用されるポリエステル繊維にリサイクルされていた。

 2022年、タイ保健省は食品に使用するプラスチック容器包装の品質および規格に関する規制を改正した。これによって、バージン樹脂から作られた食品容器のみならず、再生樹脂の使用も可能となった。但し、清潔さと安全性を理由に、肥料や有毒物質などの健康に害を及ぼす可能性がある物品の封入や包装に使用されていたプラスチックを食品容器に製造することは認められていない。

 今回の食品に使用するプラスチック容器包装規制の改正により、食品容器の用途における再生樹脂の使用が解禁され、ペットボトルの廃棄物を再びペットボトルとしてリサイクルするようになったことは、循環型経済に向けた大きな一歩である。

再生PET樹脂の事例

 2023年、タイコカ・コーラグループは、100%再生PET樹脂(以下rPET) で作られたボトル(ラベルとキャップを除く)を使用したコーラを発売した。同グループはタイにおいて食品容器用途におけるrPETの使用が許可されて以来、ENVICCO社 の rPET を採用している。

 ENVICCO社はタイで初めてFDAの認定を受けた再生プラスチックペレットの生産者である。再生プラスチックペレットにバージンプラスチックペレットと同等の特性を持たせ、食品に接触する包装材に使用できるペレットにリサイクルする技術を備えている。

 タイでは、プラスチックを含む固形廃棄物の処理がまだ十分でないことが深刻な問題となっている。政府はこの課題に対して真剣に取り組んでおり、環境保護やリサイクルの促進に向けた取り組みを強化している。これにより、将来的にはタイの廃棄物処理やリサイクル市場が拡大し、新たなビジネスチャンスが生まれることが期待される。

 

(2025年8月)

 

 

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