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インドネシアの水質汚染と石炭採掘~マハカム川を例に


 

はしけ船が行き交うマハカム川
 インドネシア・東カリマンタン州の州都、サマリンダ市を流れるマハカム川は、カリマンタン島(ボルネオ島)を代表する大河。マハカム川は東カリマンタン州で流域面積が最も大きい河川であり、その流域からは石油や天然ガス、石炭、パーム油、木材などの資源が豊富に産出される。そのため、サマリンダ市を起点に流域奥地のダヤッ族の村を訪れるクルーズ観光の他、マハカム川はこれら資源の輸送にも利用されている。インドネシアの大きな河川でははしけ船(バージ)によるバージ輸送が主流となっており、とりわけ、石炭はバージ輸送品目の大半を占めているとされる。石炭を積んだバージがマハカム川を行き来する光景は、都市面積の70%以上を鉱区が占める河港都市サマリンダ市(CNN Indonesia)ならではの日常風景といえる。

マハカム川流域での水質汚染を深刻化させる石炭採掘
 インドネシアの多くの河川がそうであるように、近年、マハカム川も産業排水や生活排水により水質汚染が深刻化している。先日、サマリンダ市を訪問する機会があったが、マハカム川も黄河の如く黄色に濁っており、川の近くで車から降りると異臭が鼻をついた。川岸などでのゴミの「ポイ捨て」や産業廃棄物の垂れ流しといった同国国内共通の要因以外に、マハカム川独特の事情として、河川流域の近くに炭鉱が密集し、石炭採掘が行われていることが挙げられる。
 マハカム川で悪化する水質問題は既にサマリンダ市などで社会問題となっており、環境保護団体のグリーンピースやWaterkeep Allianceなどは警鐘を鳴らす。これらの団体によると、マハカム川近くの炭鉱から排出される坑廃水のほとんどは酸性で、かつ金属を多く含んでいることから、以下のような被害を自然環境や農業活動に与えているとされる。
 ① マハカム川流域ではpH値が酸性を示すところが多いとされ、pH3以下のサンプルも検出されている。このような酸性水は魚や植物を死に至らせるだけでなく、水稲の生育不良や異変を引き起こしている。
 ② 酸性坑廃水はpHが低く、重金属がより溶けやすい環境となることから、アルミニウム、鉄、マンガン、カドミウム、ヒ素等の重金属が水源や土壌に蓄積しやすくなっており、農作物被害を深刻化させている。
 ③ 採掘活動は森林破壊を通じて、多発する洪水被害の原因の一つとなっているだけでなく、洪水を通じて炭鉱跡地や地表の鉱滓(スラグ)等を洗った水が近郊の水田に流れるという二次被害をもたらしている。

インドネシア政府の水質汚染に対する取り組みは不十分?
 一方で、インドネシア政府はこのような環境問題解決に向け、関連法令・規定の導入を推進している。例えば、2008年に制定された『廃鉱と埋め立てに関するエネルギー・鉱業資源大臣規定(No.18)』では、炭鉱開発前に環境影響調査を実施することや、炭鉱閉鎖後30日以内に炭鉱跡地を埋め立てることを採掘事業者に義務付けている。
 しかし、このような関連法令・規定は規制がそもそも不十分であったり、法令・規定間で矛盾が生じていたりするため、問題点が多いと環境団体は指摘する。その一例として、2001年に発行された『水質管理と水質汚濁防止に関する政令(No.82)』においては、養殖業・農業用水に含まれる重金属の濃度上限値が設定されていないことが挙げられる。また、2014年に公布された『石炭・鉱石採掘会社による廃鉱後の埋め立て処理に関するエネルギー・鉱業資源大臣規定(No.7)』は前述の2008年の大臣規定に抜け道を作る形で、炭鉱跡地を埋め立てずに水源地として活用することを認めている。さらには、政策の履行段階において、中央政府が環境への影響を十分に考慮せずに操業ライセンス(環境許可)を発行していることや地元政府による監視が十分に機能しいていないことも問題点として取り上げられる。

水処理技術への関心高まる
 インドネシアは世界最大の石炭輸出国であり、石炭採掘場が密集する東カリマンタン州や南カリマンタン州、南スマトラ州などにとって、石炭採掘業は地域経済の柱となっている。持続的に地域経済を発展させていくためには、採掘活動を一方的に制限するのではなく、採掘を始めとする生産活動と環境保護の両立を実現させることがより重要だといえる。
 環境団体の報告によると、同国の採掘事業者のなかには排水処理技術が低いことから、沈殿池を作らずに排水基準値を上回る基準で坑廃水を垂れ流しするケースもあるとされる。また、植林や埋め戻しをせずそのまま炭鉱を閉める企業や、森林修復用の税金を納付していない採掘事業者は後を絶たない。鉱業活動で発生する廃水の処理や炭鉱閉鎖後の環境修復に取り組まない採掘事業者には重い罰則を科す必要がある一方、そもそも普及が遅れている汚水処理に関する技術や排水管理のノウハウの導入を後押しすることも政府の役目だと筆者は考える。
 まだ実例は多くないものの、インドネシアの石炭大手アダロ・エナジーは、フランスの水処理大手スエズ・エンバイロメントと共同事業体を設立し、政府の給水施設プロジェクト案件に入札したり、M&Aを通じて自社の水処理能力を拡大したりするなど、環境保全に前向きな動きが近年見られている。また、2018年にはJICAがインドネシアの政府関係者や民間工場の関係者を対象に、日本企業の持つ排水処理技術を紹介するセミナーを開催するなど、官民の環境に対する関心は高まってきている。今後、家庭向けやその他の産業においても汚水処理技術の市場は成長することが見込まれ、とくに(重)金属除去技術や脱塩(イオン)技術、粘土/ポリエチレン膜による雨水浸透防水技術といった関連技術は炭鉱地区などで活躍できるポテンシャルが高いといえそうだ。


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