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強化される中国の環境保護対策


注目を集める中国の環境問題
 近年、ブラジル、ロシア、インド、そして中国の4か国(BRICs:ブリックス)は新興市場大国といわれるほどにめざましい経済発展を遂げており、このことにより世界におけるエネルギー・資源の争奪戦が繰り広げられるようになった。
 一方、急速な経済発展は資源の消費を加速させ、これに伴い、上記各国では様々な環境問題が生じてきている。中でも、特に中国の環境問題は近年大きくクローズアップされている。

環境問題の顕在化と環境保護法改正
 中国で環境保護法が施行されたのは1979年だが、環境問題が注目されるようになったのは2000年代に入ってからである。2009年以降、特に北京やその周辺部では、一年中霧のようなものに包まれるようになり、健康被害が多数報告された。高速道路の封鎖やフライトの欠航など、交通にも大きな影響を及ぼした。2011年秋、米国大使館がPM2.5という観測データをツイッター上で公開し始め、これが中国政府当局の発表した観測データと大きく乖離していることが分かり、大きな話題を呼んだ。
 その後判明した乖離の原因は、政府当局の発表データは、m3当たりのPM10濃度であり、そもそも観測対象が異なっていた。つまり、実際の大気汚染は当局の発表よりも深刻であった。2013年初め、多くの地域では数十メートル先が見えないほどの重篤な大気汚染が続き、社会に不安の声が拡がり、またこれが世界中で大きく報道され、「PM2.5」という言葉と共に広く認識されるに至っている。「PM2.5」をきっかけに、大気汚染のみならず、「三廃問題」(廃気、廃水、固体廃棄物)に象徴される多岐にわたる環境問題が中国で顕在化し、政府が環境劣化の深刻さに気づき、環境保全と改善を積極的に図るようになった。政府は2014年に環境保護法を25年ぶりに改正し、環境汚染事業者に対する罰則を強化すると共に、その管理監督を担う役人に対しても昇進条件に環境問題の解決を盛り込み、環境対策に取り組まざるを得ない状況を作り出してきた。
 また、オンラインモニタリング等の環境汚染物質の監視技術の導入も上海・北京等の直轄市を中心に徐々に始まっている。そして、2018年1月1日からは 「環境保護税」が施行され、環境対策に取り組む企業は税制優遇を受け、取り組まない企業は従来以上の税率が課されることになる。
三つの環境政策に基本をおく環境対策
 現在、中国の環境対策の基本は、排ガス、排水、固体廃棄物のいわゆる「三廃」による汚染防止対策におかれている。大気分野であればVOC対策や発電部門以外の脱硫・脱硝・集塵が、水分野であれば各種工業排水処理、さらには排水のゼロエミッション化が中国政府関係者からよく挙げられるテーマである。
 土壌分野はまだ実情の把握と制度設計が始まったばかりであるが、土壌汚染の原因である廃棄物処理分野では生活・工業汚泥の無害化処理や資源化処理がよく挙げられるテーマである。「三廃」に関連する法令としては「大気汚染防止法」「水汚染防止法」「固体廃棄物環境汚染防止法」がある。このうち、大気汚染防止法と水汚染防止法には法律の内容をもう一段具体化して示す「大気汚染防止法実施細則」「水汚染防止法実施細則」が規定されている。また工場等からの具体的な排出基準値を規定した「大気汚染物質の総合排出基準」「ボイラーの大気汚染物質排出基準」「汚水総合排出基準」がこれらの法律に基づいて別途設定されている。
地方基準が優先される排出基準
 大気汚染、水質汚濁、固体廃棄物に関してはこれらの国家レベルの法令とは別に、多くの地方で独自の環境法規が条例や弁法、管理規定などといった名称で規定されている。工場が立地する地方に該当する環境法規がある場合は、地方法規が優先されることから、特に、国家レベルより厳しい「上乗せ基準」や規制対象範囲を広げる「横出し規制」が規定されていることが多い。



求められる企業の戦略
 習近平政権は「グリーン(緑色)発展」の実現のため、大気、水質、土壌の各方面から法規制の整備、行動計画の策定などを行いつつ、運用も厳格化している。特に、2017年が「大気汚染防止行動計画(略称は大気十条)」の第1段階の目標達成年にあたることから、「2017~2018年秋・冬季の京津冀および周辺地域における大気汚染総合防止のための行動方案」が8月に発表されるなど、取り組みが一層加速している。中国における環境保護対策の強化は、優れた技術を持つ日本企業にとってビジネスチャンスとなる面もあるが、環境基準違反による減産や操業停止など、進出日系企業が対応を強いられるケースも発生している。
 現在、多くの日系企業は処理設備の増加等の対策を講じているが、環境規制が日々厳格化する中国では、今後、政策動向に細心の注意を払うことが必要である。

(2018年7月)


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