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視界が悪くなる日もある?!インドネシアの深刻な大気汚染


外に出ると止まらない咳とバサバサな髪

 以前ジャカルタの空港に降り立って外に出て驚いた。視界が悪くなるほど空気が澱んでいた。外出の際のマスクは必須で、着用していても鼻炎持ちの私と友人は帰国間際に少し風邪気味になった。バイクに乗っている人は厚手のマスク、もしくはタオル等で口元から首まで覆って走行していた。現地に住んでいる友人に「ジャカルタは絶対マスクが必要!」と何度も言われたがその理由がわかった。ホテルに戻ると毎日髪もバサバサだった。バリやジョグジャカルタも訪れたが、このような状態にはならなかった。

 スイスの『IQAir』が提供する大気汚染情報プラットフォームによると、2023年8月から10月にかけて、ジャカルタの大気質指数(AQI)は100から160(101‐150:敏感な人の健康に有害、151-200:健康に有害)を記録した。インドネシアの年間平均でも105だった。そして、世界保健機関(WHO)が推奨する「人の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準」として定められたpm2.5の年間平均値は5 µg/m³だが、同年のインドネシアの年間平均値は19.9µg/m³だった。

 この大気汚染の主な原因として次の3つが挙げられる。

 1つ目は「バイクや自動車から出る排気ガス」である。インドネシア環境林業省によると、ジャカルタの大気汚染源とその占める割合はオートバイや自動車(44%)、産業(31%)、家庭活動(14%)、発電(10%)である。インドネシアでは人口の約85%がオートバイを保有しており、特にジャカルタのオートバイの台数の増加が、ジャカルタの大気の質に大きな脅威をもたらしている。

 2つ目は「産業廃棄物による汚染物質排出」である。エネルギー・クリーンエア研究センターの調査によると、ジャカルタは半径100km以内に13の発電所が近接しているため特に深刻な影響を及ぼしている。また、無秩序なゴミの焼却により排出される煙には有害な化学物質が含まれており、ジャカルタの大気汚染の大きな原因の一つとして指摘されている。

 そして3つ目は「乾季の長期化」である。2023年はエルニーニョ現象により通常は8、9月で終了する乾季が10月まで長引いた。乾季後に来る雨季には降雨により大気汚染は軽減されることがあるため、雨季の到来が期待されていた。

大気汚染対策に動き始めた政府

 こうした原因がわかっている中、インドネシア政府は2023年7月に電動バイクの利用促進の試みとして、「2023年工業大臣規定第6号」が制定され、電動バイクを購入する際に700万ルピア(日本円で約67,000円)の補助金が交付されることが決定された。また、電気自動車(EV)とその主要部品の研究開発に取り組む企業には、最大300%の超高額税額控除が適用される。消費者側では、EV購入の課税が免除される。インドネシア国内で保有率が高いオートバイを電動バイクに乗り換えてもらうことで対策を図ろうと試みている。電動バイクは、補助金が支給されても値段が少し高く、さらに補助金を支給されるには条件がある為、補助金を受給してバイクを購入した事例は多くはないようだが、今後政府は条件の変更も検討しており積極的な姿勢を見せている。

 その他にも同年9月には数日かけて70,500リットルの水をジャカルタ上空から噴霧し、人工蒸発形成を行ったり、交通量を減らすため2023年8月21日から2ヶ月間を試行期間とし、公務員の50%が在宅勤務を義務付けられた。

大気汚染対策市場に参入する日本企業

 インドネシア自動車製造業者協会によると、2023年1~8月の自動車の販売台数675,287台のうち、5.7%にあたる約38,000台がEV車だったという。自動車総販売台数に占めるEVの比率は、前々年0.5%、前年は1.5%でEVの販売が急速に拡大していることがわかる。一方、電動バイクでは、ホンダが2030年までにインドネシアで電動バイクを年間100万台販売する計画を2022年に発表している。電動バイクの主要メーカーは、中国や台湾、インドネシアの国内メーカーが中心である。これらのメーカーは、メインユーザーであるオンライン配車・配送サイト等と連携している企業が多い。

 また、2011年に環境省の調査によると、インドネシアの大気汚染に対する環境対策技術ニーズとして、「集塵装置・関連機器及び高層煙突、排ガス処理装置・重油脱硫装置及び排煙脱硫装置」が挙げられていた。2014年に日本企業がインドネシアの企業と集塵装置の技術提携を開始したケースや、アマノ株式会社が日本で磨いた技術やサービスをベースとして、世界中で多数の設備を導入しているケースもある。アマノ株式会社は、1998年にインドネシアに子会社を設立し、現在も集塵装置を販売している。また、株式会社プランテックが、2020年にインドネシア国内で唯一、国際基準にも適合した有害廃棄物の最終処理の営業許可を所有しているPPLi社(DOWAエコシステムの子会社)から新焼却設備で焼却炉や排ガス処理装置を受注した。また、DOWAエコシステムは、PLLi敷地内に焼却・無害化設備を2021年12月に稼働させた。近年、インドネシアの環境対策技術ニーズを満たし市場参入している日系企業はあるが、まだ動き始めたばかりである。

 まだまだ発展途上のインドネシア。日々発展していくことが手に取るようにわかり、様々な方面で参入するチャンスも多い。だが未だ環境問題で健康被害に悩まされている人々も少なくない。そういった中で日本の環境技術が今後より期待されていくのではないだろうか。

 

(2024年11月)

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