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インドネシアの医療保険制度


 インドネシアの医療保険は、大きく二つに分けることができる。一つ目は加入が義務づけられ、かつ政府機関によって運営されている公的医療保険と、二つ目は加入が任意で、民間企業によって運営されている民間医療保険である。今回は、国民の98%が加入する公的医療保険制度である「BPJSヘルス」に着目していく。

 以前、インドネシアでは全国民を対象とする公的医療保険制度は存在せず、その代わりに業種ごとを対象としている複数の制度は存在していた。例えば公務員および退職公務員向けの医療制度(ASKES)、軍人・警察向けの医療制度(ASABRI)、民間企業従業員向けの労働者社会保障制度(JAMSOSTEK)、貧困層向けの医療制度(JAMKESMAS)で、各種制度はそれぞれ異なる政府機関によって運営が行われていた。

 そのため、上記の制度の対象外である自営業、小規模企業、主婦などが加入できる公的医療保険制度はなかった。そこで、インドネシア政府は全国民を対象とする新たな制度を整備するために、2004年に国家社会保障制度に関する法律を制定し、国民皆保険の導入を決定した。その後、制度実現に向けて10年間の準備期間を経て、2014年には従来の複数の制度を統一するための機関として医療保険実施機関(BPJS)が設立され、全国民を対象にした国家医療保険(JKN)が施行された。2014年当初、政府は2019年までに全国民をカバーするという目標を設定した。

 新制度では、インドネシア国民および6か月以上インドネシアで働く外国人が対象となり、加入が義務化されている。2024年10月時点で、同制度には国民の約98%にあたる2億7,750万人が加入している。

保険料の料率

 BPJSヘルスの保険料は、賃金労働者と非賃金労働者によって異なる。公務員、軍人、警察官、その他の賃金労働者(国営企業、民間企業の従業員など)の保険料は月給の5%分で、そのうち雇用主が4%、加入者が1%を負担する。給付対象者は加入者本人以外にも、配偶者、未婚あるいは収入がない21歳未満の子供3名までの合計5名までが対象となる。

 一方、非賃金労働者(自営業者など)および非労働者の場合は、入院した際に希望する病室の等級(1~3級)によって保険料が異なる。非賃金労働者の毎月支払う保険料は、第3級の場合35,000ルピア、第2級の場合は100,000ルピア、第1級の場合は150,000ルピアを加入者が支払う。なお、第3級の場合は、自己負担の他に政府が7,000ルピアを補助している。

 非賃金労働者は、自由に等級を選択することはできるが、賃金労働者の場合、加入者の等級は賃金額によって自動的に決定される: ① 賃金額が4,000,000ルピア/月以上は第1級、② 賃金額が4,000,000ルピア/月までの場合は第2級、③ 解雇された従業員は第3級となっている。

 なお、BPJSヘルスの加入者全体の4割を占めている貧困層の保険料(一人あたり一か月42,000ルピア)は政府が全額を負担する。

 

 

適用範囲

 BPJSの保障内容は幅広く外来、検査、診療、入院治療、投薬までカバーされ、原則として加入者の医療費の窓口負担は無料とされる。ただし、大臣令で規定された治療内容をオーバーした場合、その差額は自己負担となる。

 また、BPJSはゲートキーパー制を導入しているため、加入者が利用できる医療機関は決められている。最初にJKNに加入する際、加入者はあらかじめBPJSに加盟した一次診療機関を指定して、登録する必要がある。この一次診療機関は通常加入者の居住地周辺の保健センターあるいはクリニックで、加入者のBPJSカードに記載される。この登録された一次診療機関は、加入後に変更することもできる。

 加入者が初診時に受診できる医療機関はこの登録された一次診療機関のみで、当該診療機関の判断により対応ができない場合、紹介状を書いてもらい、指定された大規模病院(国が運営する公立病院またはBPJSに加盟した私立病院)にはじめて診療することが可能となる。つまり、一次診療機関の紹介状なしでは、重い病気であっても直接、大規模病院で受診することはできない。ただし、救急の場合は一次診療機関を介さず、直接大きい病院の救急外来を受診してもよい。

給付調整プログラム(Coordination of Benefit)

 BPJSだけでは、カバーできる治療内容および受診できる医療機関が限られていることから、差額の医療費を支払って追加の医療サービスを希望する人も出てくる。それに対応するために、BPJSは2016年に民間の保険会社と協力して、Coordination of Benefit/CoB(給付調整)プログラムを発足させた。

同プログラムは、補完的給付のための給付調整であり、加入者はBPJSと民間保険会社から同時に補償を受けることができる制度である。BPJSの加入者は、規定に従って一定の限度額までJKNプログラムの給付を利用し、追加費用が発生した場合は、民間の保険によってカバーされる。

例えば、入院にあたってより高い等級の病室を利用する際、差額のベッド代を民間保険でカバー、またはBPJSプログラムでは適用範囲外の治療を受ける際などを民間保険で賄える。さらに、加入者は登録された一次診療機関の他に、民間保険会社と提携している一次診療機関からの紹介を利用することもできる。

しかし、CoBプログラムは、BPJSと民間保険間の費用分担のスキームがなく、また両方の補償スキームに違いがあるなど、実施に関する規定がないため、同プログラムから撤退する民間保険会社も少なくない。

 

BPJSの課題

 BPJSが直面している課題の一つは、複雑な手順を踏まないと医療サービスを利用することができないという点があげられる。また、一次診療機関から紹介された指定病院の数は限られているため、医療サービスを受けるまでに長時間待たされることも日常茶飯事である。これを理由に、加入しているにもかかわらず、BPJSを敢えて利用せず、迅速な医療サービスを受けるために一般ルートを利用する人も少なくない。

 さらに、BPJSプログラムの資金調達も重要な問題である。同プログラムは加入者による保険料の未払いが多いため、しばしば赤字となる。2024年10月時点で、加入者が2億7,750万人に達したものの、そのうち20%の5,680万人は保険料を納めていないという。それに加えて、慢性疾患の増加や医療技術の高度化に伴い、医療サービスの費用が増加の一途をたどっていることも、BPJSの財政負担を重くしている。

 BPJSに加盟している病院からは、病院への支払いが遅く、BPJS患者の医療費は一時的に病院側で負担せざるを得ないなど、病院の経営にも影響を及ぼしているとの苦情が上がっている。

今後の医療保険制度

 課題が山積みのBPJSプログラムではあるが、同プログラムのおかげでインドネシアの医療サービスが利用し易くなったことは否定できない。BPJSによって、基本的な医療サービスへのアクセスが国民全体に開かれたものとなった。また、このプログラムによって健康維持の重要性に対する人々の意識が高まっている。

 今後、インドネシアの経済発展に伴い、中間および富裕層の増加が見込まれており、より多くの人々が高品質かつ迅速な医療サービスを求めるようになることが予測される。この要望に十分対応できる保険制度の整備、公的医療保険機関と民間保険会社の協力が期待される。

 

(2026年4月)

 

 

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