インドネシアの交通問題と新システム

環境問題の要因となっている酷い交通渋滞
インドネシアの首都ジャカルタの渋滞はひどいと聞いたことがある人は少なくないだろう。世界で一番渋滞がひどい国と言われているほどピークタイムの交通渋滞は前に進まない。位置情報技術などの開発を手掛けるオランダのTomTom社によると、2023年は10キロ走るのに23分20秒かかったそうだ。前年より40秒増加しており、増々渋滞はひどくなっていることが読み取れる。また、多くの人は交通手段がバイクや自動車のため、公共交通利用率(利用されている全ての交通手段のなかで公共交通手段が占める率)は20~25%とされている。なお、インドネシアでは2029年に東京並みの60%に引き上げることを目標としている。
渋滞解消に向けての政策
こうした現状を改善すべく、インドネシア政府は渋滞緩和に向けて政策を行っている。初めに「奇数・偶数規制」である。これは、ナンバープレートの最後の一桁の数字が奇数か偶数かによって、通過を制限する制度で、ジャカルタの公道の通過の際に適応されている。平日の朝6時〜10時と夕方16時〜21時の通勤・帰宅ラッシュの時間に限られる。また、「4in1制」という朝夕の通勤ラッシュにおいて、4人以上乗車した車でないとジャカルタの主要道路に入れないという制度も検討している。以前に、渋滞解消の対策として「3 in 1」を行っていたが、ジョッキーと呼ばれる「人数合わせの(見知らぬ人)乗員要員」を規制区域前で数合わせとしてチップと引き替えに自動車に乗り込むジョッキーが増え、監視体制の不備も相まって廃止された。そのため、現在もこの制度を再施行するかは検討中だそうだ。
政府はこれらの政策よりも、市民に公共交通機関を利用してもらおうという働きかけを強めている。インドネシア国民の通勤の際の交通費は自己負担がほとんどで生活費の20∼30%を占めている場合も多いため、公共交通機関の料金を抑えることで自動車やバイク通勤から移り変わってもらうよう対策を練っている。
ジャカルタの交通機関
政府が力を入れているジャカルタの公共交通機関について少し紹介する。まず、代表的なものはMRTと呼ばれるジャカルタの中心部を南北に走る地下鉄である。運行は開始しているが未完成である。工事は、日本の円借款による事業であり、多くの日本企業が参画したが、MRT側の支払いの調整が難航し、各企業は赤字を計上することとなった。MRT側は受注業者が決まるかわからない情勢であり、さらなる完工遅延とコストアップにつながる可能性があるとして危機感を示していたが、2024年4月18日に総合商社双日が受注・契約締結したと発表した。工期は75カ月で2029年末の完工を予定している。
続いて、トランスジャカルタと呼ばれるBRTシステム(バス高速輸送システム)である。ジャカルタ市内を13路線にも及ぶこのネットワークを巡らせており、3,500ルピア(約33円)でジャカルタ市内どこへでも行くことができる。このシステムの総延長は250kmあり、世界のBRTシステム中で最も長い路線を有している。
そして、KRLというジャカルタ市内とその近郊の町を通る鉄道もあり、これは距離で料金が決まっていて最初の25kmまでは5,000ルピア(約48円)で乗車できる。車よりは移動時間がかかる可能性があるが、安価で車内も清潔で快適だという。日本の協力によって導入された鉄道のため、日本の旧車両が使われているだけでなく、運行にも日本のシステムが採用されている。
さらに一昨年運用開始されたものもあり、WHOOSHという高速鉄道である。速度350kmで走行するため日本の新幹線より早く、2都市(東ジャカルタ-バンドン)間の移動にかかる所要時間を、平均約3時間から約30分に短縮した。2ヶ月間の営業運転期間では利用者数100万人以上、平均乗車率も90%を超えた。この高速鉄道は当初、日本が開発提案していたもので、実現可能性調査は3年間行われており支払った資金も非常に多かったという。だがこの事業は、日本との受注競争に競り勝った中国が多額の融資を行うことにより実現した。この件に関して、日本側では少し苦い経験になっているが、インドネシアの交通インフラは現在急激に発展途中であり、同じくして日本の技術やアイデアも必要とされているのは間違いない。
東南アジア初 統合化モバイルアプリ
現在、日本企業も協力して開発している交通インフラをより便利に、多くの人に利用してもらおうという交通サービスアプリがある。「Jaklingko」といい、現在各社ごとに様々な交通サービスを統合するもので、具体的には一定時間内であれば何度乗り継いでも運賃上限を10,000ルピア(約95円)で利用できるというものである。出発地から目的地までのルート検索、パーキング予約、公共交通機関のチケット購入、チケット利用がすべて可能なアプリである。このサービスを実現するためには、各交通事業者との折衝と統合運賃収受システムが必要になる。Jaklingkoは、各交通事業者との折衝に専念し、統合運賃収受システムの構築は入札により決定され、最終的にはJATeLコンソーシアム(4社からなる共同事業体)がこの案件を落札した。その内の1社であるPT Aino Indonesia社に、日本企業であるTISインテックグループのTIS株式会社が追加出資を行った。また日本工営は、このアプリを通して蓄積される利用者の移動に関するビッグデータの解析などで協力している。
ジャカルタの社会問題にもなっている交通渋滞と、インドネシア全体の課題である大気汚染を解決する策として公共交通機関の利用者数を増やすことは、これからより重要になってくるだろう。引き続き、日本政府や日本企業が技術協力してインドネシアの発展に寄与することも期待される。
(2025年6月)
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