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アメリカの地震対策


アメリカの地震と防災意識

 日本は地震が多い国と言われるが、実は同じ環太平洋火山帯に位置するアメリカ西海岸には断層が集中しており、度々地震の被害を受けている。1994年1月の未明にカリフォルニア州ロサンゼルス近郊のノースリッジで発生したマグニチュード6.7の地震により、死者約60人、負傷者約9,000人の人的被害を出し、高速道路・建物の崩壊、火災や大規模な停電が起きるなど、被害総額は約350億ドルにも及んだと試算されている(Business Insider)。また、近年では2019年の7月にはマグニチュード6.4の前震とマグニチュード7.1の本震が連続して起こり、1億ドル以上の被害を出している(KTLA)。アメリカ地質調査所が2018年に発表したデータによると、カリフォルニア州を始めとした西海岸全域、アーカンソー州やサウスカロライナ州など南東部の一部地域、アラスカ州南部、ハワイ諸島などで長期的な地震のリスクが極めて高いとしている。また、マグニチュード7クラスの地震が起きた場合にサンフランシスコ・ベイエリアの25%の建物が深刻な被害を受けると警鐘を鳴らしている。
 ひとたび地震が発生すればロサンゼルスなどの人口が多い地域を中心に甚大な被害が出ると予想されるが、現状の防災対策はあまり進んでいないのが現状だ。こうした中で、NY Times紙は、アメリカでの震災対策について専門家の意見を交えながら説明をしている。震災対策が進まない理由としてまず挙げられているのが地震対策にかかる費用である。カリフォルニア州のサンフランシスコやロサンゼルスでは住宅価格が非常に高額であり(中央値:約130万ドル)、また、日本と比べて大規模な地震が発生する頻度は10分の1以下の状況で、いつ発生するか不明な地震への対策にコストをかけるのは多くの住民にとって難しいのが現実だ。日米の地震対策についての考え方の違いも顕著である。日本の地震対策は生命を守ることに加えて、建築物の保全など、災害後にも焦点が当てられているのに対し、アメリカでは生命を守ることが重視されており、建築物の保全については日本ほどではない。そのため、災害後に多くの建築物が使用できなくなることが予想されている。

取り組みと課題

 こうした中で、徐々にではあるが地震対策への取り組みも始まっている。日本の緊急地震速報と同じような警報システムの運用が西海岸の都市部を中心に進められている。地震を早期に感知し、スマートフォンやメディアを通して避難行動を促す仕組みである。また、市庁舎や病院など災害時に重要な拠点では免震構造の導入が進められている。高い免震技術を持つ一条工務店はゴムメーカー大手のブリヂストンと協力し、カリフォルニア州のサンフランシスコ、オークランド市庁舎の免震装置の設置に携わっている。
 しかし、課題も山積している。前述の警報システムを例にとると、日本は国土のほぼ全域がシステムでカバーされているのに対し、アメリカではロサンゼルスやサンフランシスコの一部の都市部のみであり、改善が必要な基地局や、今後の建設が必要な地域も多い。さらに、市民の防災意識も決して高くはない。UCLAがカリフォルニア州の住民を対象に行った地震対策の調査によると、60%以上が地震時の行動について理解していると回答した一方で、免震・耐震構造の住宅について知っていると回答した割合は35%以下にとどまり、実際に住宅を免震・耐震構造にしていると回答したのは全体の20%以下だった。また、地震保険に加入していると回答した世帯の割合も20%以下と低水準である(ちなみに損害保険料率算出機構統計集2018によると、日本の地震保険の加入率は、全国平均で30%以上であり、火災保険での付帯率が約65%である)。さらに災害時の家族単位での避難計画を準備していると回答したのは全体の約40%であり、地域の避難計画に参加している割合は20%以下であった。日本では一般の戸建て住宅や集合住宅でも免震・制震構造の需要が高まっているが、アメリカ西海岸を中心に住宅市場へ参入をしている日系の大手ハウスメーカーの多くが環境配慮型の住宅を積極的に売り出しているものの、免震・耐震構造の住宅はあまり重要視されていない傾向にある。また、各公的機関が地震への備えとして家具を固定するよう薦めているが、家具の転倒防止グッズなどの商品もさほど充実しておらず、販売されている商品の多くが壁に直接ボルトなどで固定するタイプで、設置の手間や壁へのダメージが導入の妨げとなっていることが予想される。
アメリカでの防災ビジネス

 日本では、東日本大震災などの経験や南海トラフ巨大地震への備えとして防災関連商品の市場は大きなものとなっているが(約6.4兆円:電通)、アメリカでは前述のとおり様々な理由から市民の地震への防災意識は低い水準に留まっており、同地における防災、特に地震対策の市場は未開拓の分野が多いと予想される。しかし、カリフォルニア州を中心として地震のリスクは高まっており、アメリカ地質研究所の予想によると、今後30年の間にマグニチュード6.7以上の地震が発生する確率はロサンゼルスで60%、サンフランシスコで72%となっており、マグニチュード7.5以上の地震が発生する確率はそれぞれ31%と20%である。こうした状況を踏まえ、日本独自の防災関連商品を売り込める可能性もある。
 業界別の例を考えていくと、免震・耐震住宅の販売や、既存住宅の補強工事はコスト面から敬遠されがちであるが、アメリカの住宅保険の多くが地震には適用されない、もしくは保証額が少ない事などを説明し、長期的なメリットを強調することが重要だと考えられる。また、高額の費用負担が難しい場合は、家具の転倒防止用の突っ張り棒やすべり止めシートなど、手間がかかりにくく、住宅へのダメージも少ない防災商品を提案できる可能性もある。
 環太平洋火山帯に位置し、全世界のマグニチュード6.0以上の地震の約2割が発生している(国土技術研究センター)日本の高品質で安全性の高い防災関連商品は、今後同じ環太平洋火山帯の反対側に位置するアメリカ西海岸においても生命を守る重要な役割を担えるのではないだろうか。

(2021年2月)


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