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インドと中東・アフリカの結びつき


UAEのアブダビ・ドバイや、カタールのドーハなどに行って驚かされるのが、インドやパキスタン、バングラデシュなど南アジア系、あるいはフィリピンなどからの出稼ぎ労働者の多さである。中東湾岸諸国といえば、莫大な石油収入で働かなくても暮らしていける超富裕層をイメージしがちだが、そのような人々はごくわずかである。カタールは特に自国民の2倍の70万人ほどのインド系出稼ぎ労働者が存在するという統計がある(Gulf Times)。オマーンの首都であるマスカットは、インド商人とアラブ商人の重要な貿易拠点であり、その貿易圏は東アフリカのザンジバルなどにも及んだ。印僑と呼ばれる移民の動きも歴史的にみられ、現在も、ケニアやウガンダ、南アフリカにはインドなど南アジアにルーツを持つコミュニティが一定数存在している。今回は、つながりの深いインドと中東・アフリカ諸国の関係をビジネスの面から捉えていきたい。

GCC各国のインド人コミュニティ
 GCC(湾岸協力会議)の構成国の人口に占めるインド人の割合を見てみると、バーレーン:約20%(Embassy of India, Bahrain)、クウェート:約22%(Embassy of India, Kuwait)、オマーン:約14%、カタール:約25%(Gulf Times)、サウジアラビア:約8%(Embassy of India, Saudi Arabia)、UAE・アラブ首長国連邦:約30%(Embassy of India, Abu Dhabi)である。ちなみに日本の在日インド人の割合は0.03%(約3万8千人)ほどである(法務省在留外国人統計)。どの国も出稼ぎ労働者として一時的に滞在する形が一般的であり、ほとんどが建設業などのブルーカラーである。一方で近年IT技術者やヘルスケア従事者としてGCC諸国で生活する人も増えている。
 ケニアには、先祖のルーツがインドであるインド系ケニア国民が約4万7千人(ケニア国民の0.1%)と、ケニア国籍を持たないインド人が4万2千人(外国人居住者の約9.3%, 2019 Census)存在する。南アフリカには、国籍を問わず150万人ほど(2.6%, 2019 Census)のインド人が存在する。ルーツをインドに持つケニア人の多くは専門職(弁護士、判事、医者、学者)であり、ケニアの中では裕福な層である。自営業者や小売業に従事する人も多い。またインド系南アフリカ人も比較的裕福であり、公務員、自営業者、メディア関係、法曹関係などに従事する人が多い。

インドとGCCとの貿易
 インドからGCC諸国への2019年度の輸出額は336億ドル(全輸出の12.7%)、輸入額が678億ドル(全輸入の16.8%)となっており、地域別にみると北アメリカ、EUに次ぐ3位になっている。ちなみにインドから日本への輸出額は約49億ドル、輸入が約106億円である。
 輸出入を合わせた貿易額では、アメリカ、中国に次いで3位にUAE(全貿易額の7.5%)、4位がサウジアラビア(4.2%)、6位がイラク(3.2%)である。GCCのなかで輸出額が大きいのがUAE(全輸出額の9.2%)、サウジアラビア(1.9%)、イラク(0.63%)であり、輸入額ではUAE(全輸入額の6.4%)、サウジアラビア(5.7%)、イラク(4.9%)である。UAEへの上位輸出品目は貴金属、軽油、携帯電話であり、輸入品目は石油、非工業用ダイヤモンド、金である。
 サウジアラビアへの上位輸出品目は米、乗用車(1000-1500cc)、ベンゼンであり、輸入品目は石油、液化ブタン、肥料(リン酸二アンモニウム)である。イラクへの輸出は軽油、米、中・重質油であり、輸入が石油、中質油・重質油、石油アスファルトとなっている。
 2019年度はUAE、サウジアラビア、イラクそれぞれに対して赤字になっている。湾岸諸国から輸入した原油などの鉱物性燃料を加工して周辺諸国へ輸出する加工貿易が主体となってきた。一方で近年UAE向けの携帯電話、またサウジアラビア向けの自動車輸出が拡大している。(以上貿易額、輸入額等の数字はMinistry of Commerce & Industry, Department of Commerce, Export Import Data Bankによる)
中東・アフリカ向けに携帯電話と自動車の輸出が拡大
 2019年は米中貿易摩擦の影響を受けインドも輸出が減少していたが、そのような中でも携帯電話の輸出は拡大している。インドからの携帯電話の輸出は2017年から2年で14倍に拡大しており、2019年度は30.8億ドルだが、そのうち半数がUAEに輸出されている。携帯電話の上位輸出先はUAE(携帯電話の全輸出額の54.9%)、ロシア(13.6%)、南アフリカ(5.7%)である(Export Import Data Bank)。輸出拡大の背景には、米Apple社のサプライチェーン中国依存からのインドへの転換がある。iPhoneの製造・組み立てをおこなう台湾のFoxconnはインド南部タミル・ナードゥ州チェンナイでのiPhoneの製造拠点の構築のため10億ドルの投資予定しており、同じく台湾のWistronもまたバンガロールに拠点を置いてiPhone7の製造を行っている(Times of India)。このようにAppleはインド国内市場だけでなく、中東をはじめとした世界への供給拠点としてインドを活用する方針を取り始めている。また韓国のスマートフォンメーカーも輸出を拡大させており、LGはデリー近郊のノイダや南部プネーに製造拠点を置き、中東、アフリカ輸出向けのスマートフォン製造を行っている。Samsungもノイダでのスマートフォン製造を行い、インドを拠点に各国への輸出を予定している。同社はヨーロッパとともに中東やアフリカを注目市場と位置付けている。中国企業もXiaomiをはじめVivoなど様々なメーカーがインドの生産能力を拡充しており、とくにOPPOは中東・アフリカ地域への輸出拡大を見込んでいる。
 自動車産業も、インドから中東・アフリカ諸国への輸出を拡大させている。2019年の自動車全体(鉄道を除いた輸送機械)の主要輸出相手国は3位が南アフリカ(同品目の輸出総額の6.3%)、5位サウジアラビア(4.3%)、8位UAE(2.9%)である。さらに、1000-1500ccの自動車の2019年主要輸出相手国は1位のメキシコ(同品目の輸出総額の20.5%)に続いて2位サウジアラビア(18.6%)、3位南アフリカ(16.4%)、4位UAE(6.3%)となっている。1000-1500ccの自動車輸出額の伸びが特に大きいのがサウジアラビアで、17年以降年平均約49%で伸びている。(Export Import Data Bank)
スズキのインドグループ会社のマルチスズキはインドで製造したハッチバックタイプの自動車の中東アフリカ向け輸出に力を入れている。同社の世界戦略車であるBalenoはデリー近郊のハリヤナ州マネサールにある工場で製造され、全世界向けに輸出をされている。同社は2016年からは中東(UAE、オマーンなど)やカリブ海地域への輸出にも力を入れている。
 また、韓国の現代自動車も輸出に注力している。同社のVernaはスポーティでパワフルな走行性能が特長のセダンであり、2017年に韓国からインドに生産拠点を移した。70%が輸出向けに製造され、サウジアラビアなど中東や南アフリカへの輸出に重点を置いた戦略をとっている。
インド人ネットワークが中東・アフリカ向けビジネスのカギとなる?
 中東・アフリカとのビジネスを拡大する際に、現地のインド人コミュニティを活用するというのも一つの方法だろう。パソナは、中東・アフリカ進出のためのインド系人材の日本企業への紹介を2018年に開始している。またダイキンは、インド法人での現地人材の育成に力を入れ、将来的には東アフリカへの進出を視野に入れている。インドへの進出、輸出拠点の構築とインド人材の育成を行い、長期的には中東・アフリカに進出するというのも有力な一手になりつつあるのかもしれない。

(2021年6月)


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