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メイク・イン・インディア—製造業のインド展開を考える


産業構造と製造業の立ち遅れ
 インドの経済は、91年の経済開放の前後で大幅に変化する。大まかにいえば、91年までは社会主義的な計画経済型の経済体制が敷かれ、低成長が続いてきたが、80年代から徐々に規制緩和が進んだ。91年の経済開放以降、外資規制や許認可制度が大幅に見直された。91年以前は1%から3%程度の成長率であったが、経済開放以降、世界経済の影響を受けつつも、順調に5%から7%の安定した成長を遂げてきた。(World Bank Database)
 一般的に国の産業構造は第一次産業(農業)から第二次産業(工業・製造業)へ、最後に第三次産業(サービス業)へと成長、雇用が移行していく。計画経済下のインドでも、1960年代まで農業と製造業が成長をリードしてきた。独立後、60年代にかけてたしかにインドでは重化学工業を中心に資本が投下されてきた。しかしその後製造業の成長は鈍化している。インドは独立以降ほぼ一貫してほかの新興国に比べて、GDPに占める工業部門の割合が低い。ほかの新興国は一時的であれ30%~40%程度(world bank data base)の高い割合を工業部門が占める時代を経てサービス産業へと成長が移行している。ところがインドの場合、20%台を維持し続けてきた。また労働者人口に占める農業の割合も40%以上を維持し、ほかの新興国に比べて多い(world bank data base)。農業からの労働力の移転が進んでいないことが読み取れる。
 経済統制によって健全な競争が阻害されたまま、91年の経済開放を迎えたことで、これまで国内市場のなかで保護されてきた製造業の競争力は十分ではなかった。インドの更なる経済成長のためには、農業から、第二次産業、あるいは第三次産業へと労働力を分配していく必要があった。そして、20%台で推移してきた製造業の付加価値をもうひと段階向上させるため、製造業の産業振興が課題となった。

モディノミクスとメイク・イン・インディア政策
 2014年の国政選挙で単独過半数を獲得したモーディー首相率いるインド人民党(BJP)は、規制緩和やビジネス環境の整備、インフラの拡充を行い、安定した経済成長へと舵を切った。モーディー首相が特に重要視したのが、製造業の発展であった。
 メイク・イン・インディア(インドでものづくりを)政策はこのような流れの中で生まれた。外資のインド進出を促し、インドを製造拠点に据えるための環境整備が進められた。インドでビジネスを行う上で手を焼くのが、行政手続きである。この政策で、法人設立のための諸手続きにかかる日数が短縮され、オンライン化も進んだ。また、法人税などの優遇措置や電力供給開始までの日数短縮など、インフラ面の整備も進んだ。
 税制の面からも、近年インドのビジネス環境は改善傾向にある。2017年の税制改正により、それまで複雑だった間接税が統一され、GST(物品・サービス税)が導入された。州政府がそれぞれ決めてきた税率や課税ルールを連邦政府が統一化し、州をまたいだ経済活動のルールが明確化され、課税方法も簡略化された。

日系自動車部品サプライヤーの進出
 メイク・イン・インディアが掲げる製造業育成の中で重視された産業の一つが、自動車産業である。14年以降の自動車の生産台数・販売台数ともにおよそ7~9%(インド自動車工業会)ほどで推移している。また完成車市場とともに、自動車部品市場も伸びている。自動車部品の総売上の伸び率は14年以降およそ10~15%(インド自動車部品工業会)で高い成長率を示している。インドで販売されている自動車は過度な装備を省いてコストを抑えているが、インドのユーザーニーズにマッチした仕様には人気が集まっている。例えば夏季には40℃を超える過酷な気候に対応するため、強力な冷房機能、後部座席へも強い風量を届けられる仕様が好まれる。また、クラクションは音が大きく耐久性に優れたものが主流である。インドでドライバーがクラクションを多用するのは、自分の存在を相手に伝えるためであり、彼らは危険回避のため、追い抜き時などにクラクションを使用する。このように部品単位で現地のニーズに合ったモノづくりを行うことが重要である。
 日系大手部品メーカーもインド事業を拡大させている。アイシン精機は、99年よりインドで車体系部品の生産を行っており、2012年からはブレーキ製造に力を入れている。デリー近郊のハリヤナ州およびインドの主要な港が集まるムンバイに近いカルナータカ州に拠点を置いている。同社は日系完成車メーカー以外へも販路を拡大している。子会社のアイシン・エィ・ダブリュはインド地場自動車メーカーのマヒンドラ&マヒンドラ向けに、6速オートマチックトランスミッションの製造を2015年に始めている。インドではマニュアル車が一般的であり、AT車は力不足だと考える人が多かった。ところが都市部では年々渋滞が深刻になっており、クラッチ操作が不要なAT車や、2ペダルでありながら変速可能なセミATなどの需要が拡大している。
 インドでは、大気汚染が年々深刻化しており、モーディー政権は2030年まで国内販売車のうち3割をEVにする計画を発表している。部品メーカーは環境技術に商機を見出している。古河電工は2007年にインド地場の部品メーカーであるミンダグループとともに合弁会社を設立した。自動車用のワイヤーハーネスと、ステアリングロールコネクタを製造し販売してきた。2018年に増資によって経営権を取得し、EV化による同社製品のシェア拡大を見込んでいる。また、2017年にデンソーはスズキ、東芝との合弁会社設立を発表し、自動車向けリチウムイオン電池パック製造を予定している。19年には、使用済み車両の解体及び部品のリサイクル業として、スズキと豊田通商による合弁会社の設立も発表された。同社は、スズキの販売店ネットワークを生かしてユーザーから使用済みの車を回収する。解体と廃液の抜き取りを行い、スクラップを素材として再び販売する。インドでは車両の不法投棄や、廃液が土壌・河川を汚染するなど、使われなくなった車が環境破壊を引き起こしている側面がある。部品サプライヤーを含めた自動車産業全体として、環境への取り組みはビジネスチャンスになりうるだろう。

(2021年1月)


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